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「#甘々」のBL小説を読む
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甘い蝕み(黒尾)

冬休みが嫌いだ。
たった半月程度の連休なのにも拘わらずそれなりに宿題は出るわ、テレビは特番ばかりで贔屓にしている番組は見られないわ、年末年始ともなれば大抵の店は閉まり家にいる他何もすることがなくなる。
そして、何より寒い。
まあ出不精な私にとって店云々の件は実際のところあまり関係ないのだが、こうも辺り一帯が静まり返っていると世界が終わってしまったかのような錯覚を起こしてしまう。
…そう、何を隠そうこの大晦日の北風吹き抜ける地元の商店街を私は一人歩いているのだった。

**********

「ねえ名前、ちょっとおつかい行って来てくれない?」

約30分程前の話だ。
こたつに両足だけならず両手まで突っ込み完全に引きこもり体勢に入っていた私は突如降って来たテロとも取れるその言葉に思わず眉根を寄せた。

「え、やだよ」
「トイレットペーパー、買い置きしてたつもりが切らしちゃってたみたいで…」

疑問形で話を振っておきながら私の意思などお構いなしに母は続ける。

「新年早々トイレで困りたくないでしょ?」
「そんなの知らないし」
「そう言えば、お年玉袋も無いのよねー」

会話のキャッチボールが出来ないのはいつものことなので気にせずこたつに永住権を得ようと思った矢先、年に一度のビッグボーナスの危機。

「行かせていただきます」

それを察知し自然と飛び出した言葉と共に名残り惜しくもこたつから出た私は早々にダウンを着込む。
そしてお駄賃込みで渡された千円札をがま口財布にしまうとポケットへ突っ込み、マフラーをぐるぐる巻きにして手袋を装着し完全防備で家を出た。
日が沈みかけ凍結しているかもわからない道路を自転車で走るわけにも行かず、ひたすら寒空の下グズつく鼻をすすりながら歩いて行く。
トイレットペーパーを買うなら年中無休の駅前のドラッグストアかコンビニの二択になるのだが、折角なら少しでも安く済ませて余ったお金で今年最後のささやかな贅沢がしたい。
そう思いながら足を向けたのは商店街を抜けた先にある駅前のドラッグストアだった。

立ち並ぶ建物の中で唯一明かりの灯るそこへ辿り着くと自動ドア前に積まれた一番安いトイレットペーパーを掴んで強い北風に押されるようにして店内へ入る。
忘れぬうちにと先にレジ横から黒い猫がプリントされたお年玉袋を手に取りトイレットペーパーと共にカゴに入れて残金を計算しながらお菓子コーナーへ。
毎年のことながら、この時期はチョコレートの新商品がやたら多い。
ふと目に入った他の箱菓子より少々割高な価格設定のそれは冬季限定と書かれた抹茶味のチョコレート。
抹茶好きの私は迷わず手に取り3桁の数字を足し算しながらカゴへと放り込む。

「くっ…一気に余力が…」

消費税8%の重みを感じつつ1000円を越えることがないように炭酸飲料一本と駄菓子で端数を埋めレジへと向かう。
一円玉のお釣りを受け取り無事会計を済ませて店を出るとガランとした景色の端っこに見慣れた赤いジャージを発見した。

「おーおー、年末にご苦労なことで」

すぐにこちらに気付いた長身細身のクロ猫様が咥えていたのは残念ながら魚ではなく、コンビニで売られている高級な方の焼き芋だ。
いつもの胡散臭い笑顔と共に寒い空気に吐き出される白い息。
それとは対象的に汗でしっとりと濡れた肌が妙な雰囲気を醸し出していた。

「こんなクソ寒い中ロードワークしてるクロさんの方がよっぽどだと思いますけどね」

なんでこうもまあタイミングよく出会すのだろうか。
この寒い中、部活でもないただの自主トレに研磨が付き合うわけもなく、一人で走っていたらしいクロさんは私の隣へ並ぶと袋の中身を覗き込みつつ歯型の付いた焼き芋を差し出す。

「おつかいか。あ、一口食う?」
「食べかけですよね」

とは言ったものの甘い匂いを放ち蜜のように輝く安納芋にゴクリと喉が鳴った。

「要らねーなら…」
「食べます」

普段食べることのない高級な芋を追いかけ大口を開いて齧り付くと口内に広がるまるでスイートポテトのような甘み。
自然と緩む頬が落っこちそうだ。

「超美味しい…!」
「……」

これでもかと頬張った芋を暫し咀嚼していると自分から吹っかけておきながら神妙な面持ちで固まるクロさんに気が付き、もしや食べ過ぎたかと内心ドキドキしながら窺うようにその顔を覗き込む。

「…一口、大き過ぎました?」

やっと嚥下し寂しくなった口内にじんわり残る甘さが後を引く。

「…いや、あのさ」
「なんですか」
「フッツーに食ってたけどこれ間接キスじゃん、名前チャンの破廉恥!」
「!?」

そう言うクロさんの顔は寒いからなのか照れてるからなのか少し赤くて、残りの芋を食べながら私の頭を鳥の巣みたいにぐしゃぐしゃにした。
全く頭になかったとは言え、改めて指摘されるとじわじわと恥ずかしさが湧き上がる。

「なーんてな。たまたまここ通っただけだったんだけど、会えてラッキーだったわ。んじゃ、そろそろ行くな」

こっちに反論の余地すら与えず早々に話を切り上げたクロさんが丸めたゴミをポケットに突っ込んで走り出す。

「よ、良いお年を…!」

言葉を返し倦ねていた私の口から唯一出て来た言葉はなんてことない年の瀬の挨拶。
そんな私に後ろ手に手を振って応えたクロさんの背中はあっと言う間に見えなくなった。

   <<clap!>>