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HEAVEN'S DRIVE(月島)

「ねえ、何処まで行くつもり?」
「てっ、天国まで?」
「こんな事で死ぬのはごめんだよ」


何故今僕が命の危機に瀕しているのか。
事の発端は名前が免許を取ったことだった。
写真付きの身分証が欲しいだなんて理由で教習所に通い出した名前が無事に免許を取得したのが昨日。
たまたまなのか意図的になのかはわからないが、今日は久々にお互い休日と言うことで名前の家に行くことになっていた。
そして会うや「私の初ドライブを蛍君にプレゼント!」などと恐ろしいほど満面の笑みで助手席へ招待して来るものだから、思わず僕は心底嫌そうに表情を歪める。

「何その顔…いいじゃん、ちょっと付き合ってよ」
「…ブレーキどっちかわかってんの?」
「ばっ、馬鹿にしないでよ!」

そう憤慨する名前は少し間を置いてから自信なさげに「左…だよね?」と疑問形で呟く。
…大丈夫なの、ほんとに。

「たまにはドライブデートしようよ。もうレンタカー借りて来ちゃったしさ!」
「…まあ近所なら。本当はすっごく嫌だけど」
「安全運転で参ります!」

なんて言っていたのも束の間、走り出した車はみるみるうちに大通りへ飛び出し、冒頭へ戻る。

「うわぁああ、流される!」
「ちょっと、なんで高速乗ってるの…」
「わかんない!」
「初心者のクセに調子乗るから…」
「うわーん!ごめんなさい!」

ひたすら真っすぐ走り小田原方面へ向かうこの車の目的地は一体何処なのか。
下手したら静岡くらいまでならこのまま行ってしまいそうな勢いだ。
最早諦めにも似た感情がじわりと僕の心を侵食して行く。

「そろそろ車線変更」
「無理…っ!」
「無理って…ホントにどこまで行くつもりなのさ」
「…地の果てまで?」
「一人で行きなよ」
「そう仰らずに…」
「どっちにしても何処かでパーキングエリアでも入らない限り運転代われないんだからそれまでは自分でどうにかしなよ」
「うう…」

これ見よがしに溜め息を溢しつつ吐き捨て明らかに動揺している名前を横目に盗み見ると入りたいのに入れないパーキングエリアを通り過ぎる度に絶望するその表情に思わず笑いそうになる。
なんでこんなことで泣きそうになって るんだか。
暫く周りの車に合わせるようにして…と言うよりは身動きが取れずに現状維持で走っていた名前だったが、ここへ来てタイミングよくパーキングエリア手前で車線変更した前の車に続いて左車線へと入る。
そしてそのまま金魚のフンの如く後ろについて念願の地へ。
ここまで来ると名前の駐車スキルにも不安を覚えたが幸い駐車場はガラガラで止め放題だった。

「はぁ…」

白線の枠内へと車が収まると共に隣から漏れた長い溜め息に呆れたような視線を向けながらシートベルトを外す。

「危うく殺されるところだった」
「べっ、別にそこまで酷くないし!」
「これが酷くないなら猿でも免許が取れると思うよ」
「ぐっ…」

悔しそうに言葉を詰まらせる名前を尻目に扉を開くと心地よい風が車内へと流れ込んだ。
別にわざわざ立ち寄るような大きなパーキングエリアでもないので特にすることもなく、僕は外へ出るとぐるりと車の周りを歩いて運転席の扉の前で足を止め、窓ガラスを軽くノックして名前にも一度降りるよう促す。

「ほら、交代」
「…お願いします」

潔く降りた名前と入れ替わりで運転席へと腰を下ろし妙にハンドルに近い前傾気味のシートを後ろへと下げ適切な距離を取る。
これでやっと緊張から開放されると思うと心做しか車内の空気が軽くなった気がした。

「お邪魔しまーす…」

バツが悪そうに視線を逸らしながらも名前が助手席に納まったのを確認すると止めたばかりの車を発車させる。
ずっと海沿いだったと言うのにどうせ碌に景色なんて見てなかったんだろう。
車が走り出すと海へと沈みかける夕日を名前は食い入るように眺めていた。

「次のインターで降りるから」
「えっ、どこに行くの?」
「精神的に疲れたから休憩できるとこ」
「…!?」

途端、夕日に負けないくらい赤く染まる名前の頬。
久し振りのデートをこんなドライブで終わらせるわけないデショ。
終わり良ければ全て良し。
お楽しみはこれからってことで。
天国へ連れて行くつもりだったのは僕の方。

   <<clap!>>