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寝坊助なサンタ(研磨&黒尾)

クリスマスイブは何事もなく過ぎ去り日付が変わった頃、喉の痛みで目が覚めた私が薬を飲みに一階へ降りると珍しく夜更ししている母に遭遇した。
ソファに座り絶えず携帯を弄っているその背に近付き声を掛けると母は一瞬ビクッと肩を跳ねさせたもののすぐに平静を取り繕い妙に機嫌よく振り返る。

「…あら、寝たんじゃなかったの?」
「ちょっと喉が痛くて…」
「薬出そうか」
「自分でやるからいいよー」

薬箱の中から喉の痛み止めを取り出し水で胃袋へ流し込みながら横目に母を盗み見る。
お父さんからLINEでも来たのだろうか。
起き抜けの回らぬ頭で考えながらも然程興味も沸かず、それ以上深く問うことはないまま私は部屋へと戻り再び眠りに就いた。

**********

決まり事のない朝と言うのは何故こんなにも人をだらけさせるのだろうか。
身体のダルさを理由にごろごろと布団でだらけていると気付けば窓の外では夕陽が沈み始めていた。
なんとなしに枕元へ手を伸ばしてみたが高校生の私にサンタクロースなど来る筈もなく、代わりに指先に当たった携帯を手に取り時間を確認する。
もう16時だ。
天井に向かって大きく伸びをし部屋着のままリビングへ降りて行くと台所から漂ういい香りに腹の虫が鳴り響いた。

「おはよー」
「いいとこに来たわね。名前、暇だったらいつものケーキ屋さんにクリスマスケーキ取りに行って来てくれない?はい、これ引換券ね」
「私に拒否権は…」
「ないわね」

毎年のことながらこのクソ寒い中お遣いに駆り出されるのはいくらうら若き私と言えど結構堪えるものだ。
しかし年に何度とないケーキの為にと溜め息を一つ溢して小さな紙切れを受け取った。
適当に身支度を済ませ空きっ腹で自転車に跨がりトロトロと隣町のケーキ屋さんに向かって走り出す。
ライト分重いペダルが私の体力を削ったが、今日はきっといつもより少し豪華な美味しいご飯が待っている。
それを励みにスピードを上げた。

閉店間際のケーキ屋さんに滑り込むといつ来てもいる感じのいい年配の店員さんに引換券を渡し正方形の箱を受け取る。
気の所為か去年より一回り大きく感じるそれに視線を落としながら自転車に戻ると案の定前カゴへはすんなりと入ってくれず、どうしたものかと試行錯誤した結果ケーキが潰れる覚悟で斜めに入れるかハンドルへぶら提げるかの二択を迫られた。
後者を選択した私は風に揺られるビニール袋を気にしながら行きよりも遅いスピードで暗く街灯の少ない道を寒さに震えながら帰途に着いた。

**********

「ただいまー…ん?」

鍵のかかっていない扉を開き暖かな空気に迎えられながら靴を脱ごうとすると家を出るときにはなかった二足の靴が綺麗に揃えて置いてある事に気が付き私は思わず表情を引き攣らせる。

「おー、おかえりー」

奥から聞こえるよく知る声。

「なんで…っ!」

脱ぎ捨てるようにして靴から足を引き抜き足音荒くリビングへと向かう。

「お先ー」
「…お疲れ様」

そこにはまるで自分の家かのように平然とダイニングテーブルを囲むクロさんと研磨の姿があった。
最早怒る気も失せた私はただただ深い溜め息を吐き出す他ない。

「何でいるんですか…」
「昨日の夜お母様からクリパに誘われまして」
「おれも…」
「…私聞いてないんだけど」
「まあいいじゃない。こう言うのは人数多い方が料理も作り甲斐あるし!」

そう声を弾ませる母が次々と運んで来る大皿に圧倒されつつ、例年より豪華な料理がテーブルを彩っているのを見て何も言えなくなった私は冷え切ったケーキの箱をテーブルの端に置いて研磨の向かいに腰を下ろす。

「何故この家に住んでいる私が何も知らないのか」
「そりゃあ、サプライズ的な?ところでサンタのコスプレはどうした」
「なんかごめん…」
「研磨は別にいいけど…」
「スルーかよ。しかもなんか俺は駄目みたいに聞こえるんですケド」
「あー、お腹空いたー」
「ご飯、美味しそうだね」
「…おい、お前ら」

程無くして料理が出揃い他人との夕食…もとい、母主催のクリスマスパーティーが始まった。

**********

嵐が去りやっと静かな時間が訪れると私は食器下げだけ手伝い、クロさんからの褒め殺しでやたら上機嫌な母をキッチンに残して早々に自室へ向かった。
膨らんだ腹部を甘やかすように擦りながら扉を開き一歩部屋に踏み入ると見慣れない色がベッドに一つ。
その存在を確認しようと歩みを進める。

――Merry Christmas

そう書かれたカードと共に置かれた赤い袋。
直ぐ様手に取り金色のリボンを解く。
すると中からは色々な猫のキャラクターで縁取られた写真立てといつの間に撮ったのかバレー部の面々と私が写った写真が入っていた。

「いつの間に…」

携帯の画像を現像したのだろうか。
少し粗い画質のそれは所々ブレてはいたものの万遍なく全員が写っていた。

(私、皆と居る時こんな顔してたんだ…)

思わぬサンタの訪れに胸の奥が温かくなった高2の冬。

   <<clap!>>