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重なる白(研磨&黒尾)

春高バレーの本戦が近付くに連れ我が音駒高校排球部の練習は熱を増し、体育館では部員の声とボールの音が絶えず響いている。
真冬だと言うのに熱気すら感じるそこにはあの烏野との因縁の対決に向けて監督やコーチを含めた全員がただひたすら前だけを見て練習に励んでいた。
ふと感じる疎外感。
ある時期から幾度となく感じて来たこの感覚を掻き消すように自身のセーターの胸元を握り締める。

「なーにやってんだ。胸大きくしたいんなら手伝うぜ」

背後から突然掛けられたよく知る声に眉根を寄せて振り返るとそこにはわきわきと掌を怪しく動かしながらニヤつくクロさんがいた。

「間に合ってます」
「なんだよ、人が折角…」
「おーい、黒尾!油売ってねーで早く練習戻れ!」
「はいっ!んじゃ、また後でな」

ボールを拾いがてらこちらへ来ていたらしいクロさんはコーチの一声ですぐにチームメイトの元へと帰って行く。
そう、帰って行くのだ。
じゃあ、中途半端に足を突っ込んだ私の帰る場所は?
そんなの今まで散々マネージャーの勧誘を断って来た私なんかが考えるだけ無駄なことだし、それでも温かく迎え入れてくれる皆の気持ちはきちんと理解している筈なのに…ふとした瞬間、蝕むような不安に飲み込まれそうになる。
ーー今日は帰ろう。
幸い今日は出入り口付近で見学していたので数歩踏み出せば建物の外だ。
…まるで蚊帳の外。
そう思い踵を返したときだった。

「チームメイトだけが全てじゃねえよ」

いつの間に隣りに居たのか、視線はコートに向けたままの猫又監督が呟いた。
今まで挨拶くらいしかしたことがなかったこのおおらかな監督は、思いの外私のことをよく見ている。

「あんたは別に選手でもないしマネージャーでもない。だからここにいる義務はない。あんたにとって後悔の少ない選択をすりゃいいんだ。まあ、来なくなったらうちの連中は悲しむだろうがな」

涙が出そうになった。
冷静に分析された第三者の言葉には説得力がある。
沈んだ表情から一転して自然と引き上がる口角、下手くそな笑顔を貼り付けた私の心臓が踊る。

「…っ、ありがとうございます」
「外行くなら悪いけど飲みもん足して来て。人手不足なんだ」
「あ、はいっ」

こっそりポケットに忍ばせていたスポーツドリンクの粉末を透視でもされたような気分だった。
私は三度の休憩で軽くなっているであろうジャグを手に取り水道へと向かう。
薄めに作っても仄かに香る清涼な匂いはいつかの夏の出来事を思い出させた。

**********

練習が終わり久し振りに三人で帰ることになった私達は虫の声をBGMに車通りの少ない裏道を並んで歩いていた。
他愛のない会話が途切れたところで、街頭に照らされる3つの影を見つめながら私はずっと気になっていた事を口にする。

「…そう言えば、あの試合前の怪しげな儀式は何なんですか」
「儀式?」
「ほら、あの、血がどうとか」
「あー、ルーティーン的な?」
「おれはやりたくない、あれ…」
「おっ、噂をすれば血液カラーの店員が沢山いるぞ」

結局よくわからないままクロさんの指の先を追って顔を上げるとコンビニの前で赤と白に身を包んだ若いバイトの子達が明後日には半額になってしまうであろうケーキを売り捌いているところに出会した。

「今日ってクリスマスイブなんだな」
「そうみたいですね」
「あ、ゲームのクリスマスイベント明日までだ…」
「そうだ!名前、明日サンタガールのコスプレして来いよ」
「……。ねえ、研磨は何のゲームしてるの?」

乾燥した空気に広がる三人分の白い息は水のように交わり静かに消えて行った。

   <<clap!>>