青春の苦悩(独白)
土日と振替休日のお陰で今年は去年よりも一足早く冬休みを迎え、例年通りに出された課題をさっさと終わらせてしまった私はこれまた例年通りの悠々自適な生活を満喫していた。
唯一違うことと言えば、これまでの冬休みは寒さに打ち拉がれ引きこもりニートみたいな過ごし方しかしていなかったのだが、ここへ来てひょんなことから青春の押し売りに遭ったが最後、わざわざ休みの学校へ足繁く通ってしまっていることくらいか。
最早事故である。
目覚ましをかけることなく自分の好きな時間に起床し、程好く空調を効かせた部屋で暖かいこたつに入り、手の届く範囲に必要な物を取り揃え、みかんの皮を剥きながら大して面白くもない年末の特番を見てはそこから必要最小限しか動くことなく過ごしていた私は一体何処へ行ってしまったのだろうか。
そんな一年前の自分を酷く懐かしく感じながら昨夜母に頼んで作ってもらっておいたサンドイッチに手を伸ばす。
冷蔵庫に入れていた訳でもないのにひんやりと冷たいそれを頬張り壁に掛けられた時計に視線を遣ると少しくすんだ白い円盤を左右に分割するように真っ直ぐ伸びた二本の針がそれよりも細い糸みたいな秒針に押し出されて僅かにズレる。
外はまだ薄暗い。
(明日は7時から)
自分から‘今日練習見に行くね!’なんて言える素直さはなく毎度練習時間が読めずに学校の近くをうろつく私に見兼ねた研磨から昨夜送られて来たLINEを読み返す。
7時からと言うことはロードワークが終わって練習が始まるのは8時くらいだろうか。
少し早く起き過ぎた。
早々に食事を終えた私は時間を持て余し普段なら決して触れることすら無い朝刊を取りに玄関先へ向かう。
部屋着では耐え難い冷たい空気から逃げるようにして毎朝日の出よりも先に投函されるグレーカラーの紙束を手にリビングに戻るとこたつに入りたい気持ちを抑えてダイニングチェアに腰を下ろした。
あっちは駄目だ、一度入ったら出られなくなる。
そう自分に言い聞かせ新聞を開きかけるも活字の羅列に強い嫌悪感を覚えてすぐに閉じた。
なんとなしにテレビ欄に視線を落とすとやたらと目に付くクリスマスの5文字につい先日のクラスメイト達を思い出す。
それと同時に保健室での出来事が頭を過ったが、あれからクロさんに変わった様子はないし私ばかりが気に掛けるのも何だか癪なのでもう気にしないことにした。
そう、なんてことの無いただのいつもの悪ふざけだ。
あの時の空気に何処かモヤモヤとしたものを感じながらもそう割り切ると席を立ち身支度を始める。
今日はジャグ用に粉末タイプのスポーツドリンクでも差し入れしてみよう。
気を取り直してコートを羽織り今度は完全防備で玄関の扉を開く。
雲間から降り注ぐ日差しに目を細め一歩踏み出して大きく息を吸うと冷えた空気が身体中に流れ全身に冬を取り込んだ。
「行って来まーす」
ゆっくりと閉まり行く扉を背に口にすると駅へと走り出す。
終わりの季節に吹き抜ける向かい風が私の心と身体をヒリつかせた。
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