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侵食(及川)

「なに一人でニヤニヤしてんの、気持ち悪っ」
「んー、俺の彼女が可愛くて」

及川のしつこさに根負けし半ば押し切られる形で付き合うこととなった私達は、良くも悪くも変わらぬ距離感を保ったまま初デートを迎えていた。今日のプランは及川任せにして昼前に最寄り駅で待ち合わせると今テレビや雑誌でやたらと取り上げられている話題のパンケーキ屋さんに行こうと言われ訪れたはいいものの、予想通り既に長蛇の列だ。客層は若い女性が多くどうにも周りの視線が痛い。理由は勿論、この恵まれた容姿の男が隣りにいる所為である。

「そう言う歯の浮くようなセリフを堂々と言うの止めて、キモいから」
「えー、本当のことなのにー」

然程暑くはないものの今日は風もなくジメッとした湿度の高さに皮膚がベタつく。そんな不快感を底上げするように腰に回された及川の腕を思い切り抓ると待ってましたとばかりに大袈裟な反応が返って来た。

「いったーい!」
「…及川ってさ、Mなの?」
「名前ちゃんがそう言うの興味あるなら…俺、頑張るよ」
「いや、そうじゃないだろ」

どうやら最早意思の疎通もままならないらしい。私は深々と溜め息を溢すと及川に背を向けて携帯を取り出し店のサイトにアクセスしてランチメニューのページを開いた。流石パンケーキ専門店と言うだけあり、ランチとは名ばかりでどのセットにもでかでかと生クリームたっぷりのパンケーキが盛られていて、とてもじゃないがお昼ご飯として食べらるような代物ではない。パスタの単品くらいあると思っていたんだけど…と、内心舌打ちをする。
そう、実は私は甘いものが得意ではないのだ。

「うわー、胸焼けしそうなメニューばっかりだね」

懲りずに再び私に絡み付きながら肩に顎を乗せ、後ろから携帯を覗き込んだ及川はまるで他人事のように口にする。そんな彼に構うことなく暫く険しい表情のまま画面と睨めっこをしていると程なくして携帯のバックライトが消え、暗くなった画面越しにその瞳と視線が絡んだ。
刹那、真意を汲み取った及川は私の手を取りやっと少し進み出した列から抜け出して駅の方へと引き返す。

「え、ちょっと…」
「なんだか並ぶの疲れちゃった。やっぱり他のお店に行こうよ」

思いの外鋭い及川の観察眼に驚きながらもいつになったら入れるかわからないストレスと苦手な食べ物から解放されたことでホッと胸を撫で下ろす。
人混みから抜け出すとすぐに歩調を合わせてくれたことに気付くも素直になれず隣を歩く彼から顔を背けた。

「ねえ、何が食べたい?」
「…ニンニクたっぷりのラーメン」
「じゃあ食べる前にちゅーしとこうか」
「…っ、」

口の減らない生意気な彼氏はじわじわと私を侵食して行く。ゆっくりと絡められた指は今はまだ振り解けそうにない。

   <<clap!>>