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独白(月島)

時間差での攻撃は僕の専売特許。
君も知ってるデショ。
年月をかけた計画はじっくりと浸透して君を支配する。


――独白――


久し振りに訪れた仙台駅。
東北の新宿と言っても過言ではないこの街は今日も人でごった返していた。
東京駅のホームでは雨雲が広がり小雨が降っていたがこちらは嘘のように晴れている。
それなのに東京の何倍もひんやりとする空気にどこか懐かしさを覚えた。
強めの風が打ち付けるようにしてジャケットの裾を揺らし、首元に絡み付くネクタイに耐え切れず歩調を早めるとすぐに待ち合わせ場所の居酒屋へと到着する。

店内に一歩踏み入ればアルコールとタバコのキツい臭いが蔓延していた。
店員に予約の旨を伝えて席へと案内される最中、嫌でも耳に入って来る羽目を外した大人のやり取りに嫌気が差す。
ただでさえ他人と過ごす時間と言うのは僕にとって苦痛以外の何物でもないと言うのに。

そもそも僕は会社の飲み会は勿論のこと、同窓会にすら全く魅力を感じたことがない。
仲が良ければ個人的に連絡を取っているのだからそう言う場に参加すると言うことはわざわざそうでない人間と仲良しごっこをしに行くと言うことになる。
そんな奴らと思い出話に花を咲かせたところで一体何のメリットがあるのか。
こんな風に合理性を求めてしまう時点で僕は他人と時間を共有することそのものが専ら肌に合わない性分なのだ。

今日だって本来なら迷わず断るべき集まりだった。
何せ僕は今東京にいるのだから。
しかし名前とのやり取りをストイックにし過ぎていた所為で、環境が整いいざ彼女に手を伸ばそうとしてもなかなかきっかけが掴めずにいた僕にとっては一転して好都合なイベントとなった。

前を歩く店員の足が止まり扉一枚隔てた先に名前の存在を感じる。

―――やっとここまで来た。

そう一つ息を吐いて襖を開ける。


「どうも」

シャンプーでも香水でもない、もっと本能的に感じる覚えのある香りに目眩を覚えた。
やっぱり君はあの時のまま何も変わらない。

久し振りに見た名前は伸ばし掛けなのか不揃いの髪を揺らしながらタイミング悪くも丁度ビールをだらしなく口の端から滴らせているところだった。
まあ正直この程度、驚くべきことでもない。
それよりも慌てふためいた名前の顔が面白くて上がりそうになる口角を誤魔化すように眉根を寄せる。
僕は普通を装えているだろうか。
我慢していたもの全てが溢れ出るようにじわじわと感情を支配して行く。
こんならしくもない自分を悟られたくなくて、けれど少しでも名前に触れたくて、好んで飲むことのなかった酒に手をつけ少しの後押しを得る。
自分がこんな風に酒に頼る日が来るだなんて思ってもいなかった。

情けない僕は今日これから、アルコールよりもきっと君に酔ってしまうのだろう。

   <<clap!>>