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常勝トリック(赤葦)

三日振りに帰って来た広めのワンルーム。
冷蔵庫に張り付けられたカレンダーに目を遣れば仕事、仕事、仕事…
出張明けの我が家の洗濯機はワイシャツと下着で溢れ返っていた。
クローゼットの中にギリギリ明日の分のワイシャツが残されているのを確認すると私は洗濯機のスタートボタンを押してから疲れ果てた身体をソファに沈める。
そして、予想通り襲い掛かる睡魔に従順に目を閉じ低く唸る洗濯機の音がどんどん遠ざかって行くのを感じながら意識を手放した。

**********

午前7時。
予定通りに鳴った携帯のアラームに伸びをすると身体の節々が痛んだ。
どうやら昨夜はあのままソファで寝落ちしてしまったようだ。
私は怠さの残る身体に鞭打って起き上がるとシャワーを済ませてから長いこと放置したままの洗濯機へと向かう。
壁に掛けてある時計を見上げつつ手早くハンガーにワイシャツを掛けて外に干し、下着類の部屋干しまでしっかり済ませた頃にはもういい時間になっていた。
やたら容積が大きく感じる冷蔵庫内で唯一存在感を放つ牛乳を取り出し深皿に出したシリアルにかけて簡単に朝食を済ませると忙しなく早足で家を出る。
変な体勢で寝ていた割りには眠りが深かったお陰で回復した体力を存分に使い滑り込んだ電車は毎日乗るのと同じ時間のもの。
安堵のため息を漏らして今一度時刻を確認しようと携帯を見ると真っ暗な画面に充電が無いことに気付く。
慌てて鞄の中を探したが充電器は出張時にキャリーの中に入れたままだった。
今日も午後から外回りだと言うのに…
安堵のため息が、落胆のため息に変わる瞬間だった。

**********

会社に着くと隣のデスクの先輩に頭を下げて充電器を借り、午前中いっぱいは外回りに向けての書類作りに徹した。
キリのいいところで昼食を買いに一階にあるコンビニへ向かい、まずは競争率の激しい冷蔵棚へと直行する。
所々品薄になっているそこからサンドイッチを一つ手に取りコンビニブランドの安いお茶と併せてカゴに入れると店内をぐるりと一周したところで丁度セール中の中華まんが目に留まり、レジにカゴを出しながら肉まんとピザまんも追加注文し会計を済ませて店を出る。
行きはスムーズ乗れたエレベーターだったが今度はタイミング悪く目の前で扉が閉まり、私はエスカレーターでオフィスのある上階を目指すこととなった。

せっかちな私はこの動く階段の速度に満足できず更に早く上がろうと足を動かすが、吹き抜け故通りのいい風が私の長い前髪を乱して視界を不明瞭にさせ、その煩わしさに止む無く足を止める。
すると刹那、前方にやたら目立つ長身を捉えた。

「なんで…」

ビシッと締められたネクタイに着こなされた細身のスーツ。
一緒にいるのは取引先の人だろうか、始終営業スマイルが眩しい彼、赤葦京治はまだ私の存在に気付いていないようでこちらになど見向きもしない。
それが何だか癪で私はわざと足を止めたままこのゆるゆると上がって行く苦手な速度に身を委ねる。
普通に階段を上がるのと然程変わらぬスピードで移動して行く景色にむずむずとしたものを感じながらも徐々に近付く距離。
目標まであと数メートル。
しかしあろうことか赤葦はこのタイミングで私に背を向け反対側にある店を指差し取引先の人と話をし始めた。
ここまで来て気付かないとは…そう私に青筋が立ち掛けたところで不意に感じた体温。
手摺上ですれ違い様後ろ手に重ねられた手。
この男は本当に――
私は腹いせに手が離れる間際、赤葦の手の甲を抓ってやった。

**********

職場に戻り充電中のランプがとっくに消えていた携帯の電源を入れると連続受信したメッセージを順番に開いて行く。
赤葦からは二件来ており、一件目は朝に送られていたメッセージで今日私の会社のビルに仕事で来ると言う内容だった。
そして二件目の時刻を確認するとほんの数分前。

(パン類ばかり食べてると太りますよ)

赤葦の観察眼には一生敵う気がしない。

   <<clap!>>