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九月二十七日(月島)

side:苗字 名前

(ツッキー誕生日おめでとう!)

デートへの出掛け間際、たまたま見てしまった旧友のタイムラインに私は愕然とした。
友人としての付き合いが長過ぎてかすっかり気にも止めていなかったが、思えば私と蛍君には友達以上恋人未満と言う甘酸っぱい期間がない。
要するに、本来その時期にするであろう相手の情報収集を私はしていないのだ。
まさか今日が蛍君の誕生日だったなんてそんなまさかそんなまさかそんな…
と、軽いパニック状態に陥り掛けたところで短く震える携帯電話。
新着メッセージの送り主はそんな噂の蛍君からだった。

(着いた。適当にブラブラしてるから近くなったら連絡して)

この瞬間、先に行ってプレゼントを買うと言う選択肢さえも失った私の手は先程の携帯に負けないくらい震えていた。

「どうしよう…」

こんなことならいっそのこと何も知らないまま会って本人から突っ込まれた方がどれ程気が楽だったことか。
まあどちらにせよ後の祭りな訳で、私はため息混じりに到着予定時刻を返信すると買ったばかりのブーツに足を収め重い腰を上げて家を出た。

**********

side:月島 蛍

待ち合わせの時間まであと10分を切ったところで僕は携帯に一度視線を落としてディスプレイに表示されている数字に目を細めた。
ただ時間を確認したかっただけなのに日付の方に目が行くのは無意識に何かを期待しているからなのだろうか。
そんな考えが頭を過り一つため息を溢す。
きっと名前は今日が僕の誕生日だなんてことは知らないでやって来るのだろう。
今まで誕生日を聞かれたことなんかないし、仮に誰かに聞いていたとしたならもっとあからさまに態度に出ている筈だ。
まあ別に誕生日だからと言って一日が伸びるわけでも縮む訳でもない。
他人からしたら特筆すべきことなんか何もないいつもと変わらぬ24時間。
なのに何処かそわそわするのはきっと子供の頃に盛大に祝ってくれていた兄ちゃんの所為なんだろうと思う。

「馬鹿馬鹿しい」

バックライトの消えたディスプレイに皮肉めいた自分の顔が映った。

「お待たせ!」

顔を上げ掛けたところで後ろから思い切り肩を叩かれドキリとする。

「何なのそのテンション、気持ち悪いんだけど」

いきなり声を掛けるものだからびくりと跳ね上がってしまった肩を僕は誤魔化すように大袈裟に払いながら名前を見下ろした。

「いえ、その…普通です」
「いや、おかしいデショ」

これは明らかに後ろめたいことがある時の反応だ。
朝に連絡した時は普通だったことを考えると恐らくこの短時間に誰かから誕生日のことを聞いたのだろう。
わかり易いな…

「今日さ…」
「わー!ごめん!誕生日だなんて知らなかったの!!」
「まだ何も言ってないんだけど」
「あ…」

そして疑惑は確信へと変わる。

「へー、名前は自分の彼氏の誕生日も覚えてないんだ?」
「だから知らなかったんだってば!」
「逆ギレとかやめてくださーい」
「くっ、ごめんなさい…」

まあ多少残念ではあるけど想定内のことだし、寧ろ暫くは何かと我儘通し易くなるから僕としては美味しいんだけどね。

「では改めまして…誕生おめでとう!物質的なプレゼントは後日ちゃんと用意するので取り敢えず今日は…」
「"プレゼントは私"とかそう言うベタなのはいいからね」
「し、しません!そんなこと!」

なんだ、しないのか。
なんて僕らしくもない感想が頭に浮かぶ。
結局無計画に行われたぶっつけ本番の誕生日祝いは当日でも予約が取れたレストランでのディナー。
個人的に女性に食事代を払わせると言うのは好まないので名前が化粧室に行っている間に会計を済ませておくと店を出るや凄い剣幕で怒られた。
僕が名前に求めるものはそんなことじゃないんだけど。
いい加減わかってほしい。

「物は要らないからさ、名前にしか出来ないことしてよ」
「例えば?」
「たまには頭使わないと脳ミソ溶けるよ」

そうこちらを見上げていた頭を掴んで前を向かせる。
まだ時間が早い所為か繁華街は人で賑わい始めたばかりで、どのグループも店選びに精を出しあちらこちらで道端に固まっていた。
こんな所じゃすぐに気を散らす名前は目を離したらすんなりと人混みに飲まれてしまいそうだ。
僕は名前の腕を掴むと人を避けるようにして早足にメイン通りを抜け、この時間ではまだ人通りの少ない裏通りへと誘導する。

「何処行くの…」
「ホテルだけど?」
「え、こんな時間から?」
「今日は"こんな時間だから"、デショ」

溶けかけた脳ミソを働かせたのか俯いた名前の顔は耳まで真っ赤で、僕の気分を高揚させた。
日付が変わるまでの時間は全て僕が頂くよ。
不器用な君から取り立てる誕生日プレゼント。

   <<clap!>>