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ハイスペック彼氏(赤葦)

たまには上品にディナーでも、なんて言うものだから暫くクローゼットの奥にしまいっぱなしになっていたワンピースを身に纏い都内でも有数の複合ビルに赴いたのは三時間程前の話。
名前を聞けば誰もが知っているであろうレストランで仕事でもないのに畏まった、指先一つの動きでさえも監視されているかのような緊張した空間で空腹を満たす。
食事中の記憶なんて曖昧で料理の味だってはっきり言ってあまり覚えていない。
すぐに思い出せることと言ったらスープを飲む時のスプーンの動かし方が手前から掬うか外側から掬うかで悩んだことくらいだ。
まあこの食事が私達にそぐうデートであったかどうかは別として、最近プライベートでは家でだらけることばかりだった私にはいい刺激だったかもしれない。

曲がりなりにも大人な私達は特に粗相もなく食事を終え、私が化粧直しで席を外しているうちに会計を済ませた赤葦は戻って来た私の顔を確認するや「行きましょうか」といつもの何を考えているのかわからない表情で立ち上がった。
店を出てガラス張りの高速エレベーターに乗り込み扉が閉まると一階へ向かう筈だったこの箱は何故か地上からどんどん遠ざかって行く。
予想外のことに慌てる私に赤葦は少し振り返って挑発的な笑みで返し、目的の階で開いた扉を押さえながら私の手を引いた。

**********

上層階がホテルになっているビルとはわかっていたが既に全て手配済みとは恐れ入った。
加えて連れ込まれた部屋からの景色は最高に綺麗だった。
オートロックの扉が閉まる音が聞こえ、同時に腰に回された腕はいつもより2cm高いヒールがバランスを崩すには十分で、抵抗なんてする余裕もなくよろけた足はベッドへ向かいそのまま一気に倒れ込む。

「危ないじゃない」

うつ伏せに倒れた私に伸し掛かる赤葦を振り返るもその表情からは相変わらず何も読み取れない。
しかし試しに起き上がるような素振りを見せると逞しい二本の腕に閉じ込められた。

「逃がしませんよ」

まだ電気すらつけていない部屋は真っ暗で、唯一窓から入って来る夜景の無機質な明かりが彼の顔を照らす。

「シャワー、浴びたいんだけど」
「それだと名前さんの匂いが薄まります」

言いながら赤葦は私の肩を掴んで仰向けにさせ、首筋に顔を埋めて大きく息を吸い込んだ。

「赤葦って意外と変態よね」
「男なんて皆変態ですよ」

確かに、なんて思いながら薄い皮膚を這う舌先に目を細める。

「もっと淡白かと思ってた」
「幻滅しました?」
「……別に」
「じゃあこっちの方がいいって思わせます」

時間を共有する度に虚を衝かれ今までのイメージとのギャップにハマりそうになる自分が恐い。
年下だからとか、そう言うのとは違う単純な性癖。
始まりは赤葦の好意を利用したただの憂さ晴らしだった。
けれど今は――

「赤葦」
「なんですか?」
「好き」
「知ってます」

脱げ掛けの靴が床に落ちたのを合図にベッドが軋み二人の影が重なった。

   <<clap!>>