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「#甘々」のBL小説を読む
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十一月十七日(研磨&黒尾)

試合が終わり監督の元へ向かう皆をひっそりと見送ってから私は一足先に会場を後にした。
帰りの電車に乗り込みまだ空いている車内に空席を見つけると腰を下ろして携帯を手にする。
感想なんてそんなもの書くだけ野暮だ。
この気持ちを形容する上手い言葉なんて見つからない。
私はただ"おめでとう"とだけ皆に送信すると携帯をしまいそっと目を閉じた。

**********

車内のアナウンスで次が最寄り駅だと知り、重たい目蓋を擦って荷物を持ち直す。
時刻を確認しようと携帯を取り出すと新着メッセージの他に珍しく研磨からの着信が来ていた。
春高の事ばかりですっかり忘れかけていたが、私はここでふと重大なことを思い出す。
そう、クロさんの誕生日だ。
こうも色々と落ち着かない時期に誕生日とは流石と言うべきかなんと言うべきか…
私は扉が開くのと同時に通話ボタンを押し電車を降りた。

「…はい」

受話器越しに全国行きが決まった直後とは思えないいつも通りの覇気のない声が響いた。

「あ、研磨。電話出られなくてごめん」
「…別に。今日、来てたの…?」
「うん、皆カッコ良かった。私まで緊張しちゃったよ。本当におめでとう!」
「…ありがとう」

一見素っ気ないようだが照れ隠しのようにも思えるその態度に緩みそうになる口元を引き結んで続ける。

「あのさ、それでクロさんの誕生日なんだけど…」
「流石にアレを学校に持って行きたくない…」
「だよね」

私は尤もとばかりに一人で大きく頷くと駅のホームのベンチに腰を下ろした。
途端、太ももの裏側がひんやりと冷たくなるのを感じせめて表側だけでも冷やさぬようにと膝に荷物を乗せ身を縮める。

「ところでクロさんの誕生日っていつなの?」
「…今日」
「え……じゃあ今日渡した方がいいかな」
「…そう言うだろうと思って電話した」

流石研磨だ。

「研磨は今何処にいるの」
「さっき解散して帰る途中…」
「クロさんも一緒?」
「クロは…夜久くんに付き添って医務室」
「夜久さん大丈夫なの?」
「…うん、多分。クロもすぐ帰って来ると思う」

確かクロさんと研磨は幼なじみで家が近いと前に聞いた。
ならば今することは一つしかない。

「じゃあ今からそっちの最寄り駅まで行くから待ってて」

私は今しがた座ったばかりのベンチから立ち上がるとタイミング良く来た電車に乗り込んだ。

**********

待ち合わせの駅に着くと赤いジャージに身を包んだ研磨が柱に隠れるようにして携帯を弄っていた。
私が小走りに駆け寄ると研磨は顔を上げ地面に置いていた重たそうなリュックを肩に掛ける。

「お待たせ」
「さっきクロに連絡したらもう帰るって言ってた…」
「急ごう」

研磨と並んで歩く見知らぬ土地の空は広く、次第に夕焼けに染まって行った。
今日これからの計画を相談しながら歩いているとすぐに研磨の家に着いてしまい、企画側が無計画状態のサプライズ演出にどうしたものかと頭を抱える。
研磨は家に入るやすぐに例の大きな包みを抱えて現れ「こっち」とだけ呟いてクロさんの家があるであろう方へ私を誘導する。

「一刻も早くこれを何とかしたい…」
「ごめん、私持つよ」

そう手を差し出したが研磨はプレゼントをしっかりと抱えたまま私の横に並んだ。
何だかんだで私に持たせない辺りやっぱり男の子だなぁと思う。
――と、油断したその時だった。

「こんなところで何やってんのかなー、キミ達は」

突然背後から声を掛けられドキリとする。

「お疲れー」

恐る恐る振り返るとそこにはひらひらと手を振るクロさんがいた。
そもそもここはクロさんの家のすぐ近くで、しかも帰宅時間を予想すればこれは全然有り得る展開。
私はいきなりの出来事に頭が真っ白になり、自分が何をしに来たのかだけを思い出すと慌てて言葉を紡ぐ。

「あ、クロさん。おめでとうございます、色々と」
「誕生日おめでとう、朝も言ったけど」
「人を祝うのにそのテンションの低さ!」

ま、別にいいケドネ…
そう続けるクロさんの視線は当然研磨が抱えるモノに向けられる。
その視線に私が気付くより早く研磨は大きな包みを押し付けるようにしてクロさんに渡した。

「プレゼント…」
「二人からです」
「お、おう。サンキュー」

ただでさえ荷物の多いクロさんは両手一杯になり一歩後退ったが、包みを器用に足の上に置くと上部を開いて中身を確認する。

「随分大物じゃねぇか」
「持って来るの大変だった…」
「意外と高いんですよ」
「文句ブーブーだなオイ」

言いながらずり下げた包みから飛び出した大きな猫の耳にクロさんの表情が一瞬固まる。
私と研磨は顔を見合わせてニヤリとした笑みを浮かべた。

「いい誕生日になりましたね」
「…改めて見るとやっつけ感が凄いがまあお前らの気持ちの大きさだと思って受け取っておこう」
「この猫に三日三晩願うといいことがある…」
「え、なに。そう言う系のアイテムなのコレ」
「…かもしれない」
「研磨ウケる」
「……」

   <<clap!>>