×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
叩けよさらば開かれん(影山)

久しく部活が休みの今日。
帰りのHRが終わると俺は最近ずっと放置状態だった名前の元へ向かっていた。
先日席替えをしたばかりの教室内で俺達は窓側の一番後ろと廊下側の一番前と言う最も遠い位置関係にある。
狭い机の間をずんずん進んで行くと周りの奴らが避けるようにして道を空け、拓けたその先に名前の姿を捉える。
近付く俺に気付いた名前は俺を一瞥するとまるで何事もなかったかのようにペンケースを鞄にしまった。

「おい」
「……」
「おい!」
「……」
「お…」
「うるさい」
「じゃあシカトすんなよ!」

最近コイツといるといつもこんな感じだ。
ただでさえ主導権を握られがちだと言うのにこの扱い…気に入らねぇ。

「私はおいって名前じゃないんだけど」

そんなこと言われなくたってわかってる。
ただ俺はこれから起こそうとしている行動に少なからず恥じらいってもんがあって、目を合わせるのも正直微妙なレベルだ。
ただでさえコミュニケーションが苦手だってことはコイツだってわかってんだろ。

「ちょ、飛雄!なに!」

二人分の荷物を纏めて持ち力任せに名前の手を引くと周りのクラスメイト達がざわつく。
リンチだとか人さらいだとか言いたい放題言われているが最早そんなことはどうでもよかった。
俺の中で確かにある焦燥感だけが今の俺を突き動かしているのだから。

**********

今日の飛雄は様子がおかしい。
まあおかしいのはいつもなのだけれど、そう言うんじゃなくて、なんと言うか…

「キモチワルイ」
「具合でも悪いのか?」

相変わらずのズレた反応にこれでもかと言うくらいに肩を落とす。

「取り敢えず用件は?」
「……」
「何?」
「っ、デートすんぞ!」
「ミサイルの雨でも降らせるつもりか」

なんて、表面上は冷めた素振りで返したものの貴重な部活の休日を私との時間に費やしてくれることに正直嬉しい気持ちもあって緩みそうになる口元を引き締める。
どうせ及川先輩辺りに何か吹き込まれたのだろうが、それでもこのバレー馬鹿がバレーと関係なく何かするなんてことは滅多にないそれはそれはとても貴重なことなのだ。

チラリと横目に飛雄を見上げるといつもより更に難しい顔をして一人で何かブツブツと呟いていた。
どうせデートプランなんて気の利いたものは用意していないのだろう。
現に今もただ二人で帰路を歩いているだけだ。
私は何だかおかしくなってさっきから触れそうで触れない指先を絡めて繋ぐ。

「まあ、今回はこれで許してやろう」

少し汗ばんだ大きな掌がビクリと反応したのに気を良くした私は鼻を鳴らしながら吐き捨てるとどんな顔をしているのか見てやろうと飛雄の方へ顔を向ける。
するといつの間にか縮まっていた距離に驚く間もなく刹那、唇が重なった。

「え…」
「今回は俺の勝ちだからな」

偉そうに言う割に真っ赤な顔を誤魔化すようにすぐにそっぽを向いた飛雄に本来なら茶々を入れてやるところなのだけれど、何故だか今回ばかりは自棄にカッコ良く見えてしまった。
私は一度咳払いして気を取り直すと負けじと悪態を吐く。

「一勝したくらいで調子に乗んな」
「おまっ、少しは女らしく恥じらえよ!」

結局いつもの調子で、でも繋いだ手はそのままに歩いて行く。
隣同士の家まであと少し。

   <<clap!>>