×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
刻まれた三日月(東京代表決定戦)

行け行け音駒ー!!
押せ押せ音駒ー!!

他の皆よりも少し遅れて試合会場に足を踏み入れた私は一瞬にして場の空気に呑まれた。
応援の先陣を切るのはうちの生徒ではなく、小さくて元気な少女だ。
周りの会話からその少女が虎君の妹さんでその隣で一際目立つ綺麗な女性がリエーフのお姉さんだと知る。

「うちの応援団ってどうなってんの…」

無意識に漏れた心の声は誰にも届くことなく選手の入場と共に盛り上がりを見せる声援に掻き消され、私はなるべく目立たないようにしようと後ろの端っこを陣取るべく恐る恐る一歩踏み出す。
するとタッチの差で私より後に入って来た団体に圧され人の合間を縫うようにして一番前まで押し出されてしまった。

「おおう…」

私はすぐに後ろを振り返ったが悲しきかな多勢に無勢。
そこに並ぶ熱気に満ちた人達を掻き分けて戻る勇気もなく予期せぬ事態に呆然とする他なかった。

(端なだけマシだと思うことにしよう…)

そんな私のすぐ下でバレー部の皆が集まり円陣を組む。
仕切るのは勿論、主将であるクロさんだ。

「俺たちは血液だ」

私はいきなり飛び込んで来た突拍子も無い言葉に耳を疑った。

「滞りなく流れろ
 酸素を回せ
 "脳"が
 正常に働くために」

よくわからないけれど験担ぎみたいなものだろうか。
クロさんの声はよく通るけれど、どうやら周りの人達は応援に夢中で聞いてはいないようだった。
バレー部の面子はこの一連の流れに慣れた様子で気合いを入れるとそれぞれコートに捌けて行った。

(そう言えば、相手は何処の高校なんだろう)

基本的なルールを覚えることで手一杯だった私は対戦相手にまで気が回らず全くのノータッチで来てしまったことに今更焦り、スコアボードに書かれた学校名を確認しようとコートに視線を落とす。
しかしそれより先に見知った顔が目入り言葉を失った。

――強豪とは聞いていた。
ここにいて当たり前だ。
けれどいざ対戦相手だと言われると心の準備が出来ていない。

「マジですか…」

告げる相手などおらず私は一人ごちると手すりに凭れるようにして脱力する。
そこにはずば抜けて存在感のある木兎さん、そして一歩下がった場所に赤葦さんの姿が在った。
赤葦さんと一瞬目が合いお互い小さく会釈をしながらこの人は本当に周りをよく見ているなと改めて思う。

事前に調べた情報だともしどちらかが負けても三位決定戦で勝てば両方春校には出られる筈だ。
対戦相手を知り複雑な感情を抱く私を差し置いて定刻通り、試合開始の笛が鳴った。

**********

バレーのルールなんて大まかにしかわからないけれど、細かなスキルについては虎君の妹さんとリエーフのお姉さんの会話で何となく理解できた。
一試合目は木兎さんの超人的なスキルにやられた感が否めなかったが、我らが音駒高校排球部はそれに崩れることなく見事戸美との戦いで春高の出場権を勝ち取った。
三位決定戦前の空き時間に皆に声を掛けに行こうかとも思ったけれど私はそれをしなかった。
その位張り詰めた空気と部外者が介入出来ない何かが彼らにはあったように思う。

試合中は自棄に一秒一秒が長く感じたが、終わってみたらあっと言う間でなんだか呆気なく感じた。
けれどその内容は色濃くこんな経験は初めてで、多分一生忘れることはないだろう。
知らないうちに握りしめていた拳を開くと掌には深く爪の跡が残っていた。

   <<clap!>>