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隆起した穴(研磨&黒尾)

先日の合同練習を最後に私はバレー部の練習へ顔を出すことはなくなり、クロさんと研磨とも誕生日関連で会ったきり直接会うことはなくなっていた。
唯一の繋がりであるLINEでのやりとりも頻度は減り、自分から動くことのない私は待ち惚ける一方だ。
より内容の濃くなった練習で疲れ果てているであろう二人が私なんかに構っている余裕はないのはわかっている。
特にクロさんは受験勉強も平行しているのだから。

大会が近付くにつれ、日に日に学校中が盛り上がりを見せる。
そんな現実に急に二人が遠い存在になってしまったように感じた。

**********

(翔陽達、春校出場決定したよ)

久々に震えた携帯に過敏に反応した私は忘れられていなかったことに何処か安堵しながら携帯を手に取った。

(そうなんだ。次は研磨達の番だね)

それなのに気の利いた言葉の一つも出て来ない自分にガッカリする。

(…名前は見に来るの?)

私は嫉妬しているのかもしれない。
一生懸命になれるものがある二人に。
それを確実にものにして行く二人に。

(行けたら行くよ)

実際全国行きが懸かっているともなれば学校側も総力を挙げて応援するのは当然で、生徒は半強制的に駆り出されることになっている。
無論、私とて例外ではない。
にも関わらず、曖昧な返事をしてしまった私はなんて嫌なやつだろう。

既読が付いてから少しの間返信を待ったけれどこんな返答に返す言葉なんてある筈もなく、眺めていた画面のバックライトは消えたまま朝を迎えた。

**********

「名前、遅刻するわよ」

いつのまにか眠ってしまったらしい私は母の声で目を覚ました。
いつも鳴る筈のアラームが聞こえず枕元を見ると充電の切れた真っ暗な画面の携帯が転がっていてやっと事態を把握する。

「え、今何時?」
「いつも家を出る時間の10分前くらいかしら」
「は?」

思考が停止したのも束の間、一気に焦りがやって来た。
慌ててベッドから起き上がりぐちゃぐちゃの布団なんか気にする暇もなく制服に着替えると母を押し退けてリビングに降り立ったまま冷め掛けのご飯を掻き込む。

「あら、お行儀が悪い」

私とは対照的にゆっくりとリビングに現れた母は悠長にクスクスと笑いながら洗濯物を運んでいた。
そんな母越しに目に飛び込んで来たテレビの時刻に愕然とする。

「ヤバッ!」

私は喉に滞りがちのご飯を麦茶で流し込むと毎日欠かさず行っていた歯磨きも忘れて玄関を飛び出した。

**********

「お、やっと来たか」

最寄り駅に着くと聞き慣れている、けれど久々に耳にした声に呼び止められ、今しがた駆け抜けたばかりの改札を振り返る。

「え?何で…」
「おはよう…」

私なんかに時間を割いていい筈のない二人の姿に私は目を疑った。

「いくら連絡しても応答ねぇから心配したんですケドー」
「す、すみません。充電切れてて…」
「…充電器あるよ」

いつもと何ら変わらぬ様子の二人に面食らいながら差し出されたモバイルバッテリーを受け取る。

「借りてもいいの?」
「うん…」
「助かる、ありがと…」
「既読にならねぇから寝坊でもしてるのかと思ったぜ」
「強ち間違いでもないですけど…」
「なんだ、珍しいな」
「クロさんは私の何を知ってるんですか」

遠くなんてない。
ただ私から離れようとしていただけなのだと思い知った。
人と関わり慣れていないとは言え、近付き過ぎてふと我に返り急に怖くなって距離を取ろうとするのは私の悪い癖だ。
それをわかった上で二人はこうやってフォローしてくれている。

「あのさ、研磨…」
「なに?」

結局いつもの時刻の電車には間に合わず乗降が終わりがらんとした階段を三人並んで上がって行く。

「応援、絶対行くから」
「うん…期待しとく」
「俺の応援もしろよ」
「考えときます」

いつもの電車は逃したけれど私は大切なものを手に入れた気がした。

   <<clap!>>