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押してダメなら何とやら(及川)

いつも通りの月曜日。
目を覚ますとこれまたいつも通りのあの男が目の前でニコニコと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
ただでさえ起き抜けで機嫌が悪いと言うのに何故家族よりも先にこの男と顔を合わせなければならないのか。
慣れ親しんだ天井を背景に私の視界に入り込んで来る整った顔が自棄に腹立たしく思えた。

「おはよう名前ちゃん。ねぇ、名前ちゃんは俺のこと好きだよね?」
「は?」

言ってやりたいことは山程あったが取り敢えず罵声の一つでも浴びせてやろうかと口を開きかけるも、それより先に耳に入った付加疑問文に私はたった一文字しか言葉にすることができないまま思い切り眉根を寄せる。

「好きだよね?」
「あのさ、いい加減勝手に私の部屋に入って来るのやめてくれる?」
「ねー、質問の答えは?」
「私は仕事のできない男と同じことを何度も言わせる人は嫌い。序でに言うと勝手に他人の部屋に入るようなデリカシーのない男も」
「じゃあ問題ないね!」

誰かこの強靭なハートを打ち砕いてやってくれ。
私は未だベッドから一歩も踏み出せないままげんなりと項垂れ、盛大なため息と共に身体を起こして頭を抱える。
及川はそんなことはお構いなしにベッドに膝をつき私との距離を縮めた。

「ねぇ、好きでしょ?」
「しつこいな、あっち行って」

ここ数ヵ月繰り返されているこのやり取りに慣れつつある私はその事を恐ろしく思いながらも及川を虫けらの如く手で払った。
しかし及川は全く動じることなく更に鬱陶しさを増長させる。

「ブブー!答えになってませーん!」
「うるさいな」
「ねーねー、名前ちゃ…」
「おーいーかーわー」

言葉の応酬が面倒になって来たところで私を助けるように弟のドスの効いた声がこの終わりのない、そして意味のないやり取りに終止符を打つ。
…最早これも恒例と化していることに恐ろしさすら覚える訳だけれども。
弟の登場と共に首根っこを掴まれ私から引き剥がされた及川は器用にも笑顔のまま青褪めているが一体何処までがおふざけで何処までが本心なのか。
それともただのとてつもない馬鹿なのか。
毎度タイミングよく現れる弟に拍手を送ってやりたい気持ちとそうなる前に阻止して欲しい気持ちが私の表情を微妙なものにさせる。
私は弟に気を取られている及川の腹に蹴りを入れベッドから落とすと頭から布団を被って周りの景色を遮断した。

「一、さっさとソレ回収して」
「言われなくてもそのつもりだ」
「い、岩ちゃん顔が怖いよ!」

段々と遠くなる喚き声にコイツら受験生じゃないのか、なんて事が頭を過ったけれど自分も人のことを言えるような受験生ではなかった為何も言わずに布団を被り直す。
適温の部屋で際限なくだらけられる至福の時間。
私は何の躊躇いもなく再度深い眠りに着いた。

**********

下の階から夕飯を知らせる母の声で目を覚ますと外はもう真っ暗になっていた。

「流石にもう帰ったか…」

念の為身の回りをチェックし何も異常がないことを確認してから上半身を起こした私は大きく伸びをし、そのまま重力に逆らうことなく腕をおろす。
すると柔らかな布団に着地する筈の指先に予想していなかった感触を覚えた。
不審に思って視線を落とす小さな紙切れが一枚。
走り書きしたのかそこには少し擦れた文字でこう書かれていた。


『お願い、俺のこと好きになって』


私は拾い上げた紙を二つ折りにすると鍵付きの机の一番上の引き出しにしまった。

▼あとがき
多分この後リビングに降りると及川は岩泉家で夕飯食べてるってオチだと思います(笑)

   <<clap!>>