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レディースデー(月島)

今日は久し振りに定時で上がることができた。
連日残業続きで仕事に対するものに加え碌に自分の時間が取れなかったことに対するストレスも溜まり、私のイライラは頂点を迎えている。
おまけに今日は所謂"二日目"で肌まで荒れ放題…鏡を見る度憂鬱である。
私はエレベーターに乗り込むと一階のボタンを押すや鞄からお茶と鉄とビタミンのサプリメントを取り出し胃袋へと流し込んだ。

他の階に足止めを食らうことなくどんどん近付いて行く地上をガラス越しにぼんやりと眺めていると、反対側で開いた扉の音でやっと目的の階に到着したことに気付き慌ててお茶をしまいエレベーターから降りる。
入れ違いで乗って来た他の会社の女子社員達がすれ違い様カッコいい男性がいただとか噂をしていたようだったが、それ所ではない私は一刻も早く家へ帰りたい一心で歩みを進めロビーに出た。

「あれ…」

同じようなスーツに身を包んだ人間ばかりが往来する中、一際目を引く存在に気付き私は咄嗟に眉根を寄せる。
――まさか先程の女性達が口々に褒めていた眼鏡、長身、クールと三拍子揃った男性が自分の彼氏のことだったとは…
私は噂の主に小走りで駆け寄ると男性にしては細いその腕を勢いよく掴んで外へ出るよう促す。

「折角迎えに来たのに随分だね」
「蛍君のデカさは目立つから!バレー部とバスケ部以外だと目立つから!」

蛍君はうんざりとした様子で私を見下ろしていたがフロアにいる人達は男女問わず蛍君を振り返っているように思う。
その度に一緒に並んでいることで比較されているような気がして優越感よりも劣等感の方が勝り正直複雑な気持ちだ。
ふと顔を上げた先にあった鏡張りの壁には蛍君を引っ張っていたつもりが実際はぶら下がるような形になっている私が映っておりその不恰好さに挫けそうになったが、取り敢えずその体勢をキープしたまま何とか屋外へ出ることに成功した。

「来るなら言ってよー」
「いつ何処に行こうと僕の勝手デショ」
「もう…」

蛍君の腕を解放すると私達はどちらともなくビルと直結している駅へ向かって歩き出す。
オフィス街であるこの駅の周辺は帰宅ラッシュでとても混み合っており、ぶつかり合う肩と肩が真っ直ぐ歩くことを阻んでいた。

「そっか、この時間混んでるのか」
「時間ずらした方がいいかもね」
「今日は早く帰りたかったのに…」
「生理だから?」
「ばっ!」

蛍君のストレートな発言に変な声が飛び出し私は軽く咳払いすると人混みを避けるようにして通路の端に寄り足を止めた。

「…何で知ってんの」
「名前のことなら何でも知ってる」
「そうですか…」

そうしている間にも人は流れ次々と改札の中へ吸い込まれて行く。
蛍君は鈍く痛む下腹部に手を当て立ち尽くす私の手を取ると今しがた歩いていた道を引き返し大通りに出てタクシーを止めた。

「我慢してないで痛いって言えば?」

言うや開いた扉に私を押し込んだ蛍君は隣に乗り込みながら運転手に私の家までのルート伝える。
扉が閉まり車内のルームランプが消えると耳障りなラジオのノイズ音をBGMに車が走り出す。

「…あのさ」
「何?」
「ありがとう」
「どういたしまして」

動き出したタクシーの中で流れる景色を眺めていると骨張った大きな手が私の指を優しく捕えた。

   <<clap!>>