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「#甘々」のBL小説を読む
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三毛猫との散歩(研磨)

十月下旬。
私は窓から射し込む木漏れ日にあくびを一つ溢し、子守唄のような数学の授業に耳を傾けながら花壇に咲くコスモスを見下ろしていた。
思えば高校二年生になってもう半年以上が経過しているのだ。
この調子ではあっと言う間に成人してそれこそ気付けば棺桶の中かもしれない。
そんなどうしようもないことを考えているとポケットの中で振動を感じ、私は揺れるピンクから携帯のディスプレイへと視線を移す。

(今日の放課後、暇?クロの誕生日プレゼント買いに行きたいんだけど…)

研磨からのメッセージだった。
クロさんの誕生日を考えたらちょっと早い気もしたけれど、来月に入ってしまうと春高バレーの予選があるしこの時期を逃したら買いに行く暇などないのだろう。
私は教師の様子を窺いつつ携帯を机の中に隠して返信を打つ。

(大丈夫だよ。部活は?)
(体育館の点検で休み。多分予選前最後の休み…)

その文面からは当面の間ゲームに没頭できないことに対する悲壮感が漂っていた。

(じゃあHR終わったら研磨の教室行くね)
(うん…クロとは何処行ったの?)
(…新宿)
(人、凄そう…)
(私も同じこと言った…笑)

つい吹き出しそうになるのを咳払いをして誤魔化し時計を見るとタイミングよくチャイムが鳴った。
その音を聞くや黒板に表を描き掛けていた教師はすんなりと手を止め荷物を纏め始める。
生徒達にとっては都合の…もとい、評判のいい先生で助かった。
今日は全ての進行がスムーズで帰りのHRすら担任が不在と言うことでほんの数分で終わり、私は教科書と筆記用具を鞄に詰めると財布の中身をチェックしてから席を立った。

**********

3組の前まで来るとまだHR中の研磨の頭が扉のガラスから少し見えた。
角度的に俯いているように見えるがゲームでもしているのだろうか。
私は廊下の窓側の壁に背を預けると携帯を弄りながらその場で待つことにした。

暫くすると帰りの挨拶が聞こえ、チラホラと教室から出て来る生徒達の中に紛れていた猫背のプリン頭を見つけた私は少し声を張って彼の名前を呼んだ。

「研磨!」

私の声に一瞬ビクッとした研磨は携帯に視線を向けたままとぼとぼと覇気なくこちらへと近付いて来る。

「…お待たせ」
「ううん。で、何処に行こうか?」

未だノープランな私達は二人揃って手にしていた携帯をポケットにしまった。

「人が少なくてそれなりに物が売ってるところ…」
「小規模な駅ビルがある駅とか?」
「じゃあそこ」
「えっ、そんな感じでいいの?!」

とは言え、前回同様全くプレゼントの候補が絞れていない私にとって店の選択肢は少ない方が有難い。
斯くして私達は複数の路線が乗り入れている"それなりに大きい駅"に向かうこととなった。

**********

電車に揺られること数十分。
人通りは新宿に比べれば全然少ないが学校帰りの学生が屯する駅に着いた私達は駅に直結しているビルの中へと流されるように入って行く。
時節柄、店内にはカボチャのグッズや魔女やらドラキュラやらのコスチュームが所狭しと並んでいた。

「ハロウィンの支配率…」

煌びやかな装飾を前に途方に暮れる私を尻目に研磨は物怖じせず売り場に斬り込むと狼男の仮装セットを手に取り振り返る。

「クロはこう言うのノリノリでやりそうだからいいかも…」
「確かに似合いそうだね」

用途が限られ過ぎてはいるけれど。

「…クロと買い物来た時は何したの?」
「あんまり時間なかったから閉店間際のお店を回っただけ」
「ふーん…」

自分から聞いておきながら気の無い返事をした研磨は仮装セットを元の棚に戻し鞄を持ち直す。

「あ、あと帰りに雨でずぶ濡れになったからうちでシャワー浴びてご飯食べて帰った。全く図々し…」
「あっち見に行こう」

会話の途中だと言うのに研磨は突然私の言葉を遮りそそくさと隣のブースに移動してしまった。
私は置いて行かれぬようにと急いでその後を追う。

フロアの中程まで歩き着いた先には黒猫のぬいぐるみやグッズが沢山売られていた。
そのニヤけたキャラクターを見ているとどうにもある人物の顔が頭を過る。

「クロがいっぱいいる…」

どうやら私達は同じことを考えていたらしい。
私は手頃な大きさのぬいぐるみに手を伸ばすとそのクロさん似の猫の頭をポンポンと叩いた。

「この嫌味な感じがソックリ」
「もうこの一番大きいぬいぐるみでいいんじゃないの」
「確かに二人で買えば予算的にも…」

私達は早くもプレゼントが決まるとレジへと向かい二人で半分ずつ出し合って会計を済ませ、大きな包みを抱えて寄り道することなく帰りの電車に乗った。

「研磨がいてくれて助かったよ。私こう言うのなかなか決められないからさ…」

並んで座った車内はガラガラで埋もれるように包みを抱えている研磨も目立つことなく済み私はホッと胸を撫で下ろす。

「結構重いこれ…」
「え、私持とうか?」
「…大丈夫」

そうは言えど、うんざりとした表情の研磨からはそこはかとなくこのサイズの買い物に対する後悔の念が窺えた。

「い、いつでも持つの交代するからね!」
「うん…」

せめてものお返しにと足元に置かれた研磨の鞄を自分の膝に乗せ二人分の荷物を抱え込む。
向かいの車窓にはそんな私達の異様な姿が反射していた。
私は暫く窓に映る研磨の様子を窺っていたが頭上でチカチカと点滅し出した切れかけの電球に気付き顔を上げる。
すると同時に肩に重みを感じ、驚いて横を見ると研磨が寄りかかるようにして私の肩に頭を乗せていた。

「…おれはシャワーもご飯もないからこれね」
「は、えっ?!」

閑散とした車内に私の変な声がこだました。

   <<clap!>>