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能ある鷹は爪を隠す(赤葦)

「赤葦寒い」
「エアコンつけますね」

付き合うことになってからと言うもの、何かと尽くしてくれる赤葦に甘え放題好き放題な生活を送っている私は今日も彼の部屋を訪れていた。
転がるのに丁度いいサイズの黒いソファは既に私の定位置と化しており、つけられたエアコンの風を感じながら再度彼の名前を呼ぶ。

「赤葦」
「なんですか?」
「お腹空いた」

私の言葉ひとつで赤葦は台所へ向かい有り合わせの材料で夜食を作り出す。
私だって家事はそれなりに一通りできるけれど、この男はそれをどれも遥かに凌駕するスキルを持っていた。
これでは女の面目は丸潰れだ。

「どうぞ」

手早く調理され出されたパスタは色彩豊かでキラキラしていてお店で出て来るような出来栄えだった。
これを何の下準備もなく作ってしまうとは…恐るべし赤葦京治。
もうサラリーマンなんか辞めて飲食店でも開いたらどうかとすら思ってしまう。
そんな思いを飲み込み私は身体を起こして出来立てのパスタに手を伸ばす。

「いただきます」

見掛けに違わず味も申し分ない。

「テレビつけます?」
「うん」

悔しいので美味しいだなんて絶対に言ってやらないけれど。
つけられたテレビから流れ始めた最近流行りのCMソングをBGMに、一緒にテーブルに置かれた粉チーズとタバスコを振り掛けて少な目のパスタをペロリと平らげる。
程無くして調理器具を洗っていた赤葦が食器用洗剤特有の柑橘の匂いを漂わせながら食器を下げに現れ、今しがた片付いたばかりの流しに持って行く。
それを横目に身体を横に倒した私は今一度自堕落な時間を満喫することにした。

**********

「…名前さん」

柔らかな声に現実へと引き戻されうっすら目を開けると、あまりの心地好さに眠ってしまったらしい私をいつもの無表情が蛍光灯をバックに見下ろしていた。

「ん…」
「こんなところで寝たら風邪引きますよ」
「眠い…」

私は身体を捩り一度は開き掛けた目を閉じて赤葦へ手を伸ばす。

「何ですか」
「ベッドまで連れてってー」

いつの間にか消されたテレビが静寂を引き戻していた所為か、赤葦のため息がいつもよりしっかりと耳に届いた。

「誘ってるんですか?」
「眠いだけ」
「……」

全くその気の無い私に何か言いたげな顔をした赤葦だったが結局文句ひとつ言わずに私を抱えて寝室へと向かう。
真っ白なシーツが掛かったふかふかの布団にゆっくり下ろされると私は幸せな気持ちで満たされ身体を丸めて赤葦の匂いのする枕に顔を埋めた。

「名前さん…」
「ん…」

優しい声色で名前を呼ばれ突如身体を覆った掛け布団とは違う重みに眉を顰めて目を開けると赤葦の顔が目の前まで差し迫っていた。
私がリアクションを取る間もなく重ねられた唇は舌先で丁寧に抉じ開けられ、やがて割り込んで来たそれに翻弄されていると綺麗な指先が服のボタンに伸びて来る。

「ちょ、タイムっ!」

私は慌てて距離を取ろうと赤葦の胸板に両腕を突っ張るが、その両手首はいとも簡単に頭の上で纏め上げられ抵抗する術を失ってしまった。

「これくらいは主導権を貰わないと困ります」

そう言う赤葦は心なしか生き生きしており、これはもう何を言っても無駄だと悟った私はその後を彼に委ねることにする。

「お手柔らかに」
「善処します」

暗い部屋でギラついた瞳が私を捉え、赤葦のクーデターが始まった。

   <<clap!>>