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十月十六日(研磨)

午後11時59分。
私は携帯を片手に刻一刻と迫り来る研磨の誕生日を待ち構えていた。
もう何分も前から開いたままのLINEのトーク画面には既に文章を打ち込み済みで、あとは0時ぴったりに送信ボタンを押すだけの状態だ。
この日の為にわざわざ表示させた秒針はスムーズに時を刻み、日付が変わるまでの残り10回の数字の変化を私は息を凝らして見つめる。
そして時計の数字が全て0になる瞬間を狙い定めて送信ボタンを押した。

(誕生日おめでとう!)

無事に0:00と表示された画面を確認して私はホッと胸を撫で下ろす。
――しかしいくら待てど返信が来ることはなく、それどころか私のメッセージは既読にすらならなかった。
もしかして誕生日などには重きを置かずさっさと寝てしまうタイプなのだろうか…
私はそう思い至るとベッドに転がり携帯を枕元に置いて一応もう少し待ってみようと睡眠前のストレッチを始めた。
ゆっくりと行っていたそれもやがて終盤に差し掛かりもう寝てしまおうかと諦め掛けたその時、携帯が震え研磨からの新着メッセージが届いた。

(…ありがとう)

私は慌てて携帯を手に取るとすぐに返事を打ち始める。

(ごめん、もしかして寝てた?)
(…ずっとゲームしてて充電切れてただけ)

研磨らしい答えに思わず笑みが溢れる。
私達はその後二、三通のやり取りをすると明日の放課後に会う約束を取り付けて各々眠りに就いた。

**********

六限目が体育だったうちのクラスはとろとろと着替えては化粧直しなんぞを行うお洒落な女子達のお陰で他のクラスに比べて帰りのHRが遅れていた。
既に学校の拘束から解放された他のクラスの生徒達が廊下を通る姿を横目に私は研磨へのプレゼントが入った紙袋に手を掛ける。
クロさんはあんな風に言っていたけれど研磨はちゃんと喜んでくれるだろうか。
…正直自信がない。
私は日直の号令でHRが終わりを迎えると慌ただしく研磨のクラスへと足を向けた。

**********

三組の教室の前まで来ると私は扉の前で足を止め、こっそりと中の様子を窺った。
随分と前に解散したらしいこのクラスには人影がなく教室内は静まり返っている。
窓側から順に視線を走らせて行き一番見え難い廊下側の一番後ろの席に座ってゲームをしていた研磨と目が合うと、私は小声で「お邪魔します…」と呟き先程まで居た自分のクラスと同じ作りの教室に踏み入る。

「待たせちゃってごめん」

私の謝罪に首を横に振った研磨はデータのセーブをしてからゲームの電源を落とした。

「夜、LINEありがと…」

そう言う研磨の顔は前髪で隠れていてよく見えなかったけれど何処か恥ずかしそうに視線を泳がせているようだった。

「ううん。それでね、これ…」

私は研磨の前までやって来ると鞄とは別に腕にぶら下げていた紙袋を差し出す。
すると研磨は画面の暗くなったゲーム機を机に置き、椅子に座ったまま私を見上げてそれを受け取った。

「…何、これ」
「誕生日プレゼント。気に入ってもらえるかわからないけど…一生懸命選びました!」

一世一代の告白張りに緊張していた私は研磨に無事プレゼントを渡せただけでももう十分だった。

「ありがと…嬉しい」
「開けてガッカリさせたらごめん…」
「…名前から貰えるなら何でも嬉しい」
「…!」

私は今、出会ってから初めてクロさんのことを尊敬した。
しかしクロさんが研磨のことをよく知っているように、研磨もまたクロさんの行動はお見通しなのだ。

「もしかしてクロと買いに行った?」
「う、うん」

双方が関わる件についてどちらにも隠し事はできない。
私はそう確信した。

「…因みにクロの誕生日は来月」
「え、そうなの?」

研磨はチラリと私を一瞥すると袋から箱を取り出し赤いリボンを解きながら続ける。

「…だから、今度はおれとデートして」
「デ、デート…」
「…うん、買い物」
「りょ、了解!」

言い直した研磨の表情が気になったが位置的に確認する手立てもなく、私はその綺麗な手がプレゼントの包みを開くのをただじっと見つめていた。

▼あとがき▼
箱の中身は色々考えた結果、読者様のご想像にお任せすることにしましたっ

   <<clap!>>