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黒猫との散歩(黒尾)

(昨日名前チャンが生川高校に居た気がするんだけどー?)
(気の所為じゃないですか?)
(研磨とチビちゃんに手ぇ振ってたダロ)
(私は振ってません)
(居たんじゃねーか)

私の日曜はこんな取るに足らないLINEから始まった。
クロさんの最後のメッセージに既読を付けた私は起き抜けに両腕を伸ばして天井を仰ぐ。
久々に遠出をして疲れていたのか昨夜はよく眠れた。
大きなあくびを一つ溢し朝食を摂ろうと扉に手を掛けると再び携帯のディスプレイが光りなかなか止まない震えは着信を知らせている。
勿論そこに表示されていたのは黒尾鉄朗の名前。
まだ何か用があるのかと面倒に思いつつも私は通話ボタンを押した。

「はい」
「お前今日の夕方暇?」
「…何でですか」

私は質問に対しての返事はせず距離を取るように言葉を濁した。
その反応に答えがイエスだと踏んだクロさんは話を続ける。

「研磨の誕生日もうすぐなんだケド」
「それは何かプレゼントを用意しないとですね!あ、でもバレー部は皆で買うんでしたっけ…」
「いや、俺は個人的にも渡す」
「研磨の誕生日って…」
「16日」
「え、もうすぐじゃないですか」

迂闊だった。
こう言うことはもっと早く知っておくべき情報だ。
しかも相手が研磨となると何をあげればいいのか容易には思い付かない。
私が押し黙り考え倦ねているとクロさんはそれすらも見越していたかのように得意気に口を開いた。

「と言うワケで、デートしようぜ」
「すみません、ちょっと意味が…」
「そこは乗らないのかよ」

とは言え、こうなってしまった以上どうせどう足掻いたって私はクロさんの思い通りに動くしかないと言うことはわかりきっていた。
私はいつも通りの展開に肩を落とすとため息を吐いて携帯を握り直す。

「で、何時ですか」
「んー、6時くらい?」
「支度しておきます」
「ヨロシク」

**********

予定時刻を5分程過ぎた頃我が家のインターフォンが鳴り玄関に出て行くと軽く手を上げたクロさんがいつものニヤニヤ顔で立っていた。
部活帰りらしいクロさんは今日も赤いジャージを身に纏っている。

「研磨は…?」
「ちょっと野暮用があるから先帰るわっつったら『バレバレ…』って言われた」
「…でしょうね」

私は爪先を地面に打ち付けて靴を履くとクロさんの隣に並んで駅へと歩き出す。

「この時間だと地元全滅だな。取り敢えず新宿でも行くか」
「人混み…」
「研磨みたいなこと言ってんじゃねぇよ」

駅に着くと私達は電車に乗り込み都心へと向かう。
派手な赤いジャージ姿の高身長なクロさんに幾人もの乗客が振り返り、隣にいる私までもが刺さるような視線を感じた。

「せめてその重力を無視した髪の分だけでも小さくなってもらえませんかね」
「え、何で?」
「目立ちたくありません」
「朝起きるとこうなってるんだから仕方ねぇだろ」
「どう言うことですか…」

暫く話をしていると他の駅とは比べ物にならない人混みのホームが現れ新宿駅に到着した。

「ジャージで新宿とか…」
「人を見掛けで判断するんじゃありません」

人混みを掻き分け改札を通り抜けると日が落ちた街は重たい雲と冷たい空気に包まれていた。
私達はまだ開いている雑貨店を回り閉店間際まで各々プレゼント選びに没頭する。

(やはりこの短時間で人様にプレゼントを選ぶだなんて私には荷が重かったか…)

閉店を仄めかすアナウンスとお決まりのBGMが流れ始めるも未だ選びきれていない私が商品棚の前で唸っていると既に買い物を済ませたらしいクロさんが背後に現れた。

「何悩んでんの」
「決まりません…もうどうしたらいいか…」
「研磨は名前からなら何貰っても喜ぶと思うけどネ」

その言葉に背を押された私は何度も気になり手にしては戻していた商品を今一度手に取るとレジへと走った。

**********

帰りの電車は空いていたけれど窓には雨の雫が流れていた。
私の最寄り駅に着く頃には本降りとなったそれに傘の使用を余儀なくされた人達が挙って駅に併設している小さなコンビニの傘を買い攫って行く。
お陰で私達の分は売り切れだ。

「ウエーイ、名前が新宿で馬鹿にしたジャージの俺は勝ち組」
「くっそ…」

腹立たしい態度のクロさんを横目に睨み付けるとクロさんは私の視線なんかちっとも気にせず顎に手を添えて空を見上げていた。

「走るか」
「流石に悪いんでここまででいいですよ」
「俺はそんな薄情じゃありませーん」

そう言うとクロさんは私の手を掴んで走り出す。

「ちょ、早っ」
「あれ、思ったよりやベーわ」

どしゃ降りの中うちへ帰ると全身びしょ濡れの私達を迎え入れた母はクロさんにシャワーと着替えを貸しジャージを洗濯する間に夕飯を振る舞った。
私の隣で食事をする髪がぺしゃんこになったクロさんは何だか知らない男の人のようで不思議な感じがした。
そんなクロさんが綺麗になったジャージに袖を通し我が家を出たのは夜十時。
もう雨は上がり水溜まりには欠けた月が映っていた。

   <<clap!>>