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隔つ壁の向こう(in合同練習)

十月の初旬、クロさんのシナリオ通りに動くのは癪だったけれど私の足は生川高校へと向かっていた。
自分自身の用があるわけでもないのにわざわざ休日に隣の県まで出掛けるなんてどうかしている。
しかも自分が顔を合わせた人達の名前まで研磨に聞いて予習済みとは本当に私はどうしてしまったのか。
自分らしくもない行動の数々に呆れながらも何処か楽しみにしていることに何とも形容し難い気持ちのまま電車に乗り込む。
休日のこの時間は遊びに出掛けるであろう私服の若者がチラホラいるだけで車内は空いていた。
私は目的の駅までの時間を確認すると端の席に座って目を閉じた。

**********

ロードワーク中に出会すのは旨くないと踏んだ私は時間を調整して昼過ぎに生川高校に到着した。
今回は他校と言うこともありあまり目立たないように地味な服装で道の端をこそこそと歩く。
校内に複数ある矢印のついた看板を頼りに体育館の位置を把握すると近付くに連れバレー部特有の練習の音が聞こえて来る建物へと忍び寄る。
うちの高校とは違い上付の小窓は私には少し高く覗くには踏み台でもない限り無理そうだ。
どうしたものかと悩んでいると数メートル先の扉から転がり出て来たボールを追って例の紳士、赤葦さんが姿を現した。

「この前の…」
「ど、どうも」

無表情に言葉を掛けられ私は軽く会釈する。

「あかーし!早く!!」

その後ろで私の存在に気付いていない木兎さんが対照的なテンションで赤葦さんを急かすが、彼は動じることなく無視を決め込み地面に転がるボールに手を伸ばした。

「中、入らなくていいんですか?」
「一応私部外者なので…」
「何か必要なら伝えますけど」
「だ、大丈夫ですっ」
「あかーし!!」

少しのやり取りの間にも再度木兎さんの催促が聞こえ、赤葦さんはため息混じりに踵を返す。

「何かあったら適当に声掛けてください」

そう告げて彼は体育館へと戻って行った。
残された私は何か踏み台になるものはないかと周りを見渡してはみたがそんなものある筈もなく、半ば諦め気味に体育館の周りを一周してみる。
すると出入り口とは丁度反対側に花壇を発見した。
私は人がいないことを確認し花壇の縁に足を掛け一気に登ると小窓に手を伸ばし枠に掴まるような形で中を覗き込む。

「汗臭…」

夏よりはマシとは言え人数が人数なだけに体育館からは何とも言えない臭いが立ち込めていた。
膝を曲げて目から上だけを窓から出し盗み見るように全体を見渡すと中では二組に分かれてサーブ練習とスパイク練習が行われており、床に叩き付けられるボールの音が室内で反響していた。
その中で一際猫背のプリン頭を発見し私はその姿を視線で追う。
相変わらず物静かでモーションの少ない研磨だったが何やら途中途中に日向君と話をしていた。
研磨が部員以外の人と会話をする姿は何だか新鮮で見入ってしまう。
すると私の視線に気付いた研磨がこちらを見た。
釣られるようにして顔を上げた日向君が私を見るや驚いた顔をして叫びそうになるのを研磨がその口を押さえて止めている。
そのやり取りが可笑しくて思わず一人で小さく吹き出した。
二人が控えめに手を振って来たので以前したように口の前で人差し指を立てて制すと、コクコクと頷く日向君の隣で研磨が密かに笑っているように見えた。
ああ、あの研磨がちゃんと溶け込んでいる。
親目線で安堵している私に気付いたクロさんのしたり顔にイラッとした私は彼にだけ冷めた無視を送り、暫く練習を見学すると暗くなる前に生川高校を後にした。
この合同練習と言うのも多分このメンバーで行うのは今日で最後なのだろう。
同じことなんて二度とない。
私は無慈悲に流れる時間に不満を抱きつつ電車に乗り込んだ。

   <<clap!>>