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食指が動く(影山)

金曜日の放課後、今日は試験結果が出たこともありやけに教室内は賑わっていた。
私は上の中と言ったところか、まずまずの点数を獲られたことにホッと胸を撫で下ろす。
そんな中、チラリと隣に座る飛雄の様子を窺うと毎度のことながら返却されたテストと険しい表情で睨めっこをしていた。

「……」
「なんだよ」
「…飛雄はさ、どうしてそんなにバカなの?」
「あ゙あ゙?!」

飛雄は昔から決して勉強ができる方ではなかったが、最近そのお粗末さに更に磨きが掛かった気がする。
私は自分の点数と見比べ、憐れみの視線を彼に向けた。

「勉強なんかより俺はバレーが大事なんだよ!」

それも昔からだ。
しかしある程度は両立しなければ色々と困ったことになる。
バレーを優先して留年しました、では世の中済まされないのだ。
仮にそれがどんなに優秀な選手だとしても。

「そんなんだと進学できないでクラスメイトから先輩とか呼ばれる恥ずかしい日々が待ち受けてるよ」
「くっ、それは…嫌だ」

何やら語尾を濁らせモジモジとする180cm越えの男の姿はとてもじゃないが可愛いものではない。

「それに追試とかしてる時間の方が勿体無くない?」

私の一言一句に顔色を変える飛雄へ追い打ちをかけるように続けるとやがてぐるぐるとし出した彼は口を半開きにしたまま何処か遠くを見つめてフリーズした。

「取り敢えずさ、追試の勉強くらいはしたら?」

私は机に頬杖をついてショートしている飛雄に当たり障りのない言葉を投げ掛ける。
するとやっと正気を取り戻したのか飛雄は握り締めた拳を机に振り下ろし物凄い剣幕で私の方へ振り向いた。

「教えろ!…下さい!」
「なんじゃそりゃ」

私は呆れてじっとりと細めた目で飛雄を見やる。

「…頼む」
「面倒臭い」
「何の為の彼女だよ!」
「いや、お前こそ何の為の彼氏だよ」

また訳のわからないことを言い出した飛雄に吐き捨てると私は彼を放置して家に帰ることにした。
後ろから何やら罵声が聞こえた気がしたが最早私には関係のない話だ。

**********

今日から両親は有休と週末の連休を利用して二人で旅行に出ている。
珍しく静かな部屋に音が欲しくなりテレビを点け冷蔵庫の残り物で適当に夕食を作っていると丁度今話題の恋愛ドラマが始まった。
特にすることのない私は出来上がった夕飯を片手にソファへ移動し、だらだらとただ流れる映像を見つめていた。
物語は佳境を迎え主人公がヒロインに想いを伝えようと口を開く。
と、その瞬間。
主人公の台詞と重ねるようにして家のインターフォンが鳴った。

「誰だよもー」

あまりの間の悪さに内心舌打ちをしながら宅配便でも届いたのかとモニターを確認するとそこに映し出されたのはいつもの不機嫌そうな飛雄の姿。

「…なに、どうしたの」

私が気怠げに玄関の扉を開くと部活を終えてそのまま走って来たのか飛雄の額にはじんわりと汗が浮かんでいた。
仕方なく彼を家に招き入れリビングに通して部屋の角に荷物を置かせる。

「おばさん達は?」
「旅行中」

私は元居たソファへと戻り飛雄のことは気にせずに食事を再開した。
ドラマはもう山場をとうに過ぎ無事付き合うことになったらしい主人公とヒロインが熱い抱擁を交わしている。

――ぐぎゅるるる〜

しかしそんなムードなどお構いなしに盛大に鳴り響く飛雄の腹。
延々と止むことのないその音に思わずため息が溢れた。
大合唱かよ。

「飯…」
「はぁ…チャーハンでいい?」
「おう」

飛雄の刺すような視線に耐え兼ねた私は自分の夕飯を食べ終えるや渋々二度目の調理に入り、限られた冷蔵庫の中身で大盛りのチャーハンを作ると皿に盛り付けることなくスプーンと麦茶を添えてフライパンのまま飛雄の前に置いた。
飛雄は一瞬たじろいだように見えたがすぐにいただきますと呟くと掻き込むように食べ始める。

「で、何しに来たの?」
「ふいひのべんひょう…」
「ああ…」

もぐもぐと口の中を一杯にしたまま帰って来た言葉に最早私の中では忘れかけていた出来事を思い返す。
実のところ、飛雄は別に頭が悪い訳ではないのだ。
ただ関心を持てないことには全くその力を発揮できない。

「飛雄はもう少し勉強に興味を持ったら?」
「バカ言うんじゃねぇ!」
「馬鹿が何言ってんの」

飛雄は既にフライパンいっぱいのチャーハンを平らげ〆の麦茶を流し込んでいる。
私はまた一つため息を溢すとテーブルを拭いて今回のテストの問題文と文房具を広げた。

「ほら、さっさとやるよ」
「おう」

口の横に卵混じりの米粒をくっ付けた飛雄が私の隣に腰を下ろす。
私はそんな彼の襟を掴むと顔を寄せてそれを舐めとりついでに飛雄の唇を奪った。

「ゴチソウサマ」
「…!」

飛雄の反応に気を良くした私は口角を引き上げながら彼を解放し、さっきまでの無愛想な表情からは想像できない程に赤く染まった顔を正面から眺める。

「飛雄は女に生まれるべきだった」
「なっ、名前が男らし過ぎるだけだろ!」
「誉め言葉として受け取っておきます」

上がった室温に溶けた麦茶の氷が音を立てて崩れた。

   <<clap!>>