踊る雨の先導(研磨&黒尾)
朝見た天気予報は晴れのち曇りだったにも拘わらず、下校時刻となった今外では打ち付けるような雨が降っていた。
ここの所自転車通学の日々を送っていた私は一応折り畳み傘は持っていたがこの雨相手では少々心許ない。
私は雨が弱まるまでと理由付けてバレー部の練習を眺めながら雨雲が去るのを待つことにした。
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「「「「お疲れっした!」」」」
残念なことに雨は止むこと無く練習は終わりを迎えた。
自転車での帰宅を諦めた私が研磨とクロさんに挟まれるような形で靴を履き替えていると先に一歩踏み出したクロさんが得意気に口を開く。
「今週末は生川高校でまた合同練だから俺達はイマセン」
「そうですか」
生川高校とは確か神奈川にあるグループ校の一つだ。
合同練習と言うことは先日のメンバーが集まるのだろうか。
少し見に行きたい気持ちもあったが今回に限ってお誘いの言葉がない。
何となくいつもと違う展開を不審に思っていると横にいた研磨が私の服の裾を引いた。
「…名前」
その行動に一瞬先日の買い出しでの出来事が頭を過ったが、そんなことは深く考える間もなく振り返った私に研磨は少し身を屈めて耳打ちする。
「クロは最近押してダメなら引いてみろ作戦に切り替えたみたい…」
「…成程」
二人して呆れたようにクロさんを見ると今度はクロさんが不審そうに私達を見下ろしていた。
「なんだお前ら感じ悪ぃな」
「「…別に 」」
「出た、ハモり返事」
久々に訪れた三人の空気が何も変わっていないことに何処か安堵しつつ並んで歩き出す。
そしていつも通り他愛の無いことを話しながら駅に着き傘を畳んでいると私はふとあることに気付きその手を止めた。
「どうした?」
「…?」
「それ…」
今更ながら私はやってしまったと酷く後悔した。
三人並んで傘を差すと一番小さい上に真ん中にいる私には二人の傘からの水滴も降り注ぐ。
おまけに私は折り畳み傘だ。
恐らく二人はそれを回避する為に外側に傘を傾けて差していたのだろう。
私側の肩だけが濡れていた。
慌ててハンカチを取り出す私の意図に気付いたクロさんは鞄の中のスポーツタオルをチラつかせてハンカチを戻すよう促す。
私は已む無くそれに従ったが二人共タオルを使う様子はない。
「男はこんなの気にしねーよ」
「どーせ帰ったら乾かすし…」
そうは言っても正直この時期に体調を崩されたらと思うと私は気が気でなかった。
「…風邪とか引かないで下さいよ」
「俺初めて名前から優しい言葉掛けられた気がする。涙出そう」
「研磨に言ったんです」
「敬語だっただろうが」
「クロ、構ってもらえてよかったね…」
電車を降りる頃には雨足は大分落ち着き一面暗雲だった空は流れ薄くなった雲は月明かりを透かしていた。
私は再び折り畳み傘を開くと露先に揺れる水滴を見つめる。
今にも落ちそうなその雫はまるで泣いているようだ。
私は傘を振って水気を飛ばすと地面を跳ね返る泥水も気にせず家へと走った。
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