×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
引かれた袖(研磨&一年生ズ)

残暑の厳しい熱に当てられながら私は絶望を感じていた。
なにせこんなにも早く夏休みが終わってしまったのだから。
思えば今年の夏休みはよく外出した。
出会いも沢山あった。
友達が増えた訳ではないけれど…

蒸した体育館での始業式が終わり汗ばむ制服をパタパタと扇ぎながら教室へ戻ると席に着くや視界の端で携帯の新着を知らせるLEDが点滅しているのが目に入った。
また迷惑メールでも来たのかと思いながら私は訝しげに携帯を覗き込む。
しかし送られて来ていたのは未登録アカウントからのLINEだった。
送信時刻を見る限り始業式の最中に送られて来たようだ。
表示名は「音駒のエース!」となっており、聞かずとも誰のものだかすぐにわかる。
私のIDの入手先もほぼほぼ見当がついていたので敢えてそこは追求することなく送られて来ている内容を確認することにした。

(名前さーん!今月福永さんの誕生日なんスよ!男三人で買い物とか寂しいじゃないスかぁ。なんで、名前さんも一緒に行きましょ!)

「なにこれ…」

私は意味がわからず呆気に取られつつも連投されている続きをスクロールする。

(今日部活休みなんで集合は16時半頃、待ち合わせ場所は俺で!)

文章力が無さ過ぎて頭が痛くなって来たが、恐らく部員の誕生日プレゼントの買い出しは一年生の役目なので三人で行くのだが男だらけで嫌だ…と、こう言うことでいいのだろうか。
そもそも"待ち合わせ場所が俺"とはなんなんだ。
確かにデカいからわかり易いかもしれないけども…
私は取り敢えず既読スルーしてクロさんに連絡を取る。

(クロさん、リエーフに私のID教えましたね。お陰で面倒なことに巻き込まれそうなんですけど)

すると暇なのかすぐに返信が来た。

(芝山一人にリエーフと犬岡の世話させるとか心配だろ)
(なら主将であるクロさんが一緒に行けばいいじゃないですか)
(喜べ、目付け役に研磨を授けよう)
(人の話聞いてます?)

**********

「え、おれ何にも聞いてないんだけど」

放課後研磨の元へ向かうと全く話が通っていなかった。
最早全て見なかったことにして帰ろうかとも思ったが、運悪く私を探しに来たであろう三人衆が廊下で手を振りながらこちらへ近付いて来る。

「名前さーん!なかなか来ないからこっちから来ちゃいましたよー」
「……」

その顔触れから何となく事の成り行きを察した研磨はあからさまに嫌そうに顔を歪め、三人に背を向けてゲームの電源を入れた。

「じゃあ行きましょっか!」

リエーフ同様、乗り気な犬岡は私の腕を掴むと半ば引き摺るようにして私を連行する。
その後ろでは芝山が申し訳なさそうに軽く頭を下げていた。
ここでも押しの弱さが出た私は小さくため息を溢し、観念して三人に着いて行くことにした。

「じゃあ研磨さん、お疲れ様ッスー」

校門を出たところで後輩である彼らは反対方向へ帰るであろう研磨に頭を下げる。
しかし研磨はゲームに視線を預けたまま無言で私達の後を着いて来た。

「あれ、もしかして研磨さんも一緒に行きたいんスか?」

振り返ったリエーフが首を傾げながら嬉しそうに問う。
研磨はそんなリエーフには目もくれず私の隣に並ぶと私を一瞥してから同じ歩調で歩き出した。

「…名前が心配だから行くだけ」
「え、まさか研磨さんと名前さんって…」
「そう言うんじゃないし」

研磨はリエーフが言い切る前に少し怒気を含んだ口調で遮るとその後はゲームに没頭してしまい口を開くことはなかった。
私達は疎らに並んでとぼとぼと商店街を目指して歩いて行く。
途中、歩幅の問題か高身長の二人が先を行き徐々に距離ができて来た。

「ちょっと待てってー」

そんな二人の背中を芝山が慌てて追う。
どんどん離れて行く三人に歩くスピードを早めようとしたその時、研磨が私の服の裾を掴んだ。

「二人で帰ろう」

願ったり叶ったりな提案だったが正直芝山が気掛かりだ。
そんな私の心を見透かしたように研磨が続ける。

「芝山はああ見えて結構しっかりしてるから大丈夫…だと思う」

少し頼り無さげな言葉だったが大分小さくなってしまった三人はまだ私達の遅れに気付いていない。
抜けるなら今しかなかった。

「大丈夫かな?」
「子供じゃないんだし…まあ子供みたいだけど」
「え」
「名前はおれと帰るの」

そうもう一度服を引かれると私は断ることが出来ずに研磨と共に踵を返した。

「研磨、助けてくれてありがとう」
「別に…」

初めての二人きりの帰り道は会話は少なかったけれど沈黙は苦ではなかった。

   <<clap!>>