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黒星を喰らう(月島)

「月島の家に行きたい」
「来るのはいいけど何もないよ」

そう言われて訪れた月島の住む広めのワンルームマンションは私の部屋に負けず劣らずシンプルだった。
入ってすぐの所にある立派なキッチンも使われた形跡はなく油跡一つない。
奥に進んでみても角にパソコンデスクが一つとその反対側にベッド、手前にガラステーブルとソファ、そして52インチのテレビと言うホテルの一室のような佇まいだ。
荷物もクローゼットに収納できる程度しかないらしく床には塵一つ落ちていない。

「適当に座ってて」

月島は私をソファに座るよう促すと冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出しコップに注いでテーブルに置いた。

「ありがとう」
「DVDでも借りて来ようか」

意外にもそう提案したのは月島だった。
確かにいくら一緒にいられればいいとは言えやはりこの部屋は娯楽に欠ける。
テレビ台のガラス扉の中にはいくらかCDもあるように見えたがどれも私の知らないものばかりだった。

「近くにレンタルショップあるの?」
「まあ15分位歩けば…」

正直微妙な距離だ。

「じゃあゲームショップとかは?」
「ゲームショップではないけど古本屋なら5分位の所にあるからそこに少しはあるんじゃないの」
「じゃあそこに行こう」

私の中で往復30分+選ぶ時間を要するDVDよりも近場且つ確実に二人で楽しめるゲームに軍配が上がった。
着いて早々に出掛けることになった私達は駅とは反対方向にある古本屋を目指す。

**********

程無くして着いた古本屋には思った以上に広い中古ゲームコーナーがあった。
私も普段そんなにやるわけではないけれど、子供の頃にやったことのある古い機体を見つけると懐かしさに胸が踊る。

「月島、スーファミ買おう!スーファミ!」

月島は自分の袖を引っ張りながら興奮気味にゲーム機を指差す私を呆れ顔で見下ろした。

「何でもいいけど場所取らないのにして」
「じゃあ決定ー」

月島の言う"場所"と言うのは一体どの程度の範囲を差すのかは定かではないが、私は他のゲームには目もくれずに棚に置いてある本体に手を伸ばす。
すると、あと少しと言う所で月島の長い腕が横からそれを浚った。

「持つ」
「あ、ありがとう」
「別に。買う前に壊されても困るしね」

減らず口は相変わらずだが素直に嬉しい。
続いて物色し始めた隣のソフト売場には見覚えのあるタイトルがいくつも並んでおり、気になるものをピックアップして行くと結構な数のソフトが手元に残りパッケージを見比べては思わず感嘆のため息が出た。
この店、なかなかの品揃えである。

「取り敢えず今日は一つにしなよ」
「えー」
「他のはまた次回」

まるで親子のようなやり取りに笑いそうになりながら手元のソフトを一度棚に置くと消去法で選別して行く。
そして最後の三本で迷っていると月島が後ろから真ん中のソフトを抜き取った。

「名前に選ばせると長そうだからこれに決定」

言うや月島はレジへと向かう。
私は焦ってその後を追い、今日こそは!とギリギリの所で自らの財布で支払いを済ませた。

**********

家に直帰し早速ゲームをセットすると大きな画面に主人公の女の子と得体の知れない緑色の物体が映った。

「私にぷよぷよを挑むとは命知らずな奴め」
「こんなので命失わないから」

温度差のある二人の勝負が始まる。
最初は肩慣らしとばかりに軽い気持ちで取り組んでいた私だが気付けば本気になっており、ほんの数秒で多重連鎖を繰り広げる月島に太刀打ちできず悉く負けた。

「なんで…」
「命がなんだって?」

嫌味な笑みを貼り付けてこちらを見ている月島が憎い。

「も、もう一回」
「何度やっても同じだと思うけど…」

その後何度も勝負を挑んではみたものの、月島の言う通り私は負け続け、遂に一勝もできないまま残酷にも時は過ぎて行った。

「ゲームが楽しくない、だと…」
「馬鹿じゃないの」

私が世界の終わりのような面持ちで呟くとそれを見た月島はこれ見よがしにため息を溢す。
私はこの勝負は諦めることにし次は勝てるゲームを買おうと心に誓った。
そんな私の思いを知ってか知らずか月島は無慈悲にも言葉を続ける。

「そんなことより…」
「そんなこととはなんだ」

私は不機嫌に水を飲み干すと音を立てて空のグラスをテーブルに置いた。
月島はそんなことには全く動じることなく私との距離を詰める。

「いつまで僕の事月島って呼ぶの」

唇が触れ合いそうな距離で告げられた言葉には少し怒気が含まれているように思う。

「だって月島は月島じゃ…」
「蛍」

強い口調で言葉を遮られると私はビクッと肩を跳ねさせて視線を逸らす。
しかし相手はあの月島だ。
そう簡単に逃がしてはくれない。

「次苗字で呼んだらペナルティね」
「そっちばっか狡い」
「僕は"そっち"って名前じゃないんだけど?」
「なんでいつも月し…」

言い掛けて月島の刺さるような視線を受けた私は一度言葉を引っ込めて視線を泳がせながら再度言葉を紡ぐ。

「け、けけけけけ蛍くんは威張ってるの…!」
「トウキョウダルマガエルの鳴き声でも真似てるつもり?」
「月島は昔からそう言う変なことに詳しいよね…」
「はい、ペナルティ1」

こうして私のペナルティに埋もれる日々が幕を開ける。

   <<clap!>>