×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
Call my name!!(月島)

愛だの恋だのくだらない。
高校受験から解放され新生活にも慣れ始めたこの時期はやたらと周りがそう言う話題で持ちきりだった。
学生時代なんて適当に楽しんで学ぶこと学んでればそれでいいデショ。
卒業してからだってそれなりの大学に進学してそこそこ給料が貰える会社に就職して利害関係の一致する相手と結婚して子供を作って極々普通の一生を終える。
それが一番波のないそして無駄のない賢い選択に決まってる。


「山口君、月島君避けてー!」
「?!」

部活が終わり片付けをしていると聞き慣れたやり取りに僕はまたか、と嫌味に鼻を鳴らす。

「無事ですか?!」

一体どうしたらそうなるのか、苗字さんはボールの入ったカゴを思いきり僕達の方へぶちまけた。
似たような現象を僕は今月に入って既に三回目にしている。

「う、うん」
「月島君も?」
「別に…」

と言うか何でいつも山口の心配が先なわけ?

「名前ちゃんは大丈夫?」
「うん、ごめんね…」
「どうしたらこうなるのさ」
「自分の足に躓いた…」

悠長に加害者の心配をする山口と学ばない失敗を繰り返す苗字さんのやり取りに呆れた僕が無意識に冷たい視線を送ると苗字さんはビクッとして再度頭を下げ散らばったボールを拾い始める。
山口は懲りずにそれを手伝っていたが僕はそんな気にはなれず先に部室に戻り帰り支度をすることにした。
脱いだジャージを畳んでいる間に先に居た先輩達が「お疲れー」と手をひらつかせこぞって部室を出て行く。
その背に軽く会釈して見送っていると入れ替わりで山口が部室に入って来た。

「日向と影山まだ練習してるよ…」
「ホント朝から晩までよくやるよねー、王様達は」

体力馬鹿の考えることなんて良くわからないしわかりたくもない。
あの二人は脳ミソまで筋肉でできてるんじゃないだろうか。
まあ然程興味もないけれど。
先に着替えを済ませた僕は鞄の中身を整理してファスナーを閉じる。
隣で着替え出した山口を一瞥すると急いでいる様子も無くまだ少し時間が掛かりそうだった。

「そう言えばさ…」

やっとYシャツに袖を通した山口がふと口を開く。

「何?」

どうせまたしょうもないことを言うのだろう、僕はそう決め込んで冷たくあしらう。
しかし山口は動じること無くボタンを閉めながら不思議そうに続けた。

「何でツッキーは名前ちゃんのこと苗字で呼ぶの?」

それ見たことか、やはりしょうもないことじゃないか。

「下の名前で呼ぶことに何かメリットある?」
「え?メリット?ええっと…」

質問に質問で返したにも拘らずそれを言及できない山口はこれ以上何を話したらいいのかわからなくなったのか一度口を噤む。
けれど、こう言う時の山口の言動には大抵裏があることを僕は知っていた。
きっと誰かに指摘でもされたのだろう。

「何で急にそんなこと聞くの」
「それは…」

一応聞き返してみるも煮え切らない態度に苛立ちを覚えた僕は山口に聞こえるように舌打ちして話を促す。
確かに部内で苗字さんを下の名前で呼ばないのは僕だけだ。
だけどそれによって誰かに迷惑を掛けている訳でもないし他人にとやかく言われる筋合いは無い。

「名前ちゃんが…」
「苗字さんが何」
「何でツッキーだけ自分のこと苗字で呼ぶのかなって…気にしてた、から」

意外だった。
いつも日向や山口と仲の良い苗字さんは完全にタイプの違う僕のことなんか眼中にないと思っていたんだけど…
僕は何とも言えない気分になり、概ね着替えを終えた山口を置いて先に部室を出ることにした。
背中越しに焦った山口の声が聞こえたが気にすること無く扉を閉める。

もうすぐ夏を迎えると言うのに日が落ちたこの時間は上着無しでは少し肌寒い。
階段を降りながら雲に隠れて光る月を見つけ柄にも無く感慨に耽っていると視界の端に人影を捕らえた。

「あ、月島君」

噂をすれば影がさす、とはよく言ったものだ。
最後の一段を降り地に足をついたところで振り返るとそこには僕を見上げる苗字さんがいた。

「名前」
「ひぇっ!?」

好都合とばかりに試しに名前で呼んでみると妙に気恥ずかしさを覚えたが、それ以上に苗字さんの反応が可笑しくて加虐心を擽られる。

「あのっ、これ…」
「ああ、サポーター?」
「うん、忘れ物。月島君のだよね?」

そう言えば、置きっ放しにしたままだった。

「ありがとう、名前」
「う、うん」
「名前はまだ帰らないの?」
「も、もう少ししたら帰り、マス」

焦ってどもる苗字さんが面白くて、からかうように敢えて下の名前を連呼する。
無意識に引き上がる口角に気付かないまま暫しこのやり取りを楽しんでいると程無くして勢いよく部室の扉が開いた。

「ツッキーお待たせ!!」
「……」

空気を読まず髪も荷物もぐちゃぐちゃなまま飛び出して来た山口に苗字さんが元々大きな目を更に見開いて部室棟の二階を見上げる。
この異様な光景に山口が一歩後退ったのが見えた。

「あれ、俺…邪魔だった?」

俺と苗字さんを交互に見た山口が気まずそうに呟いたが実際そんなムードなんて微塵も無く、寧ろ苗字さんはこの機に乗じて失礼にも僕を指差すと得意気に口を開き衝撃の一言を放った。

「私もツッキーって呼んでやる!」
「止めてくれるそれ」

そして押し問答の末、僕の呼ばれ方は月島で落ち着き、この日から僕は名前の存在を必要以上に気に掛けるようになる。


Call my name!! ―― 名前を呼んで

   <<clap!>>