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9gの真鍮(研磨)

研磨達との運命的な出会いから諦めていた青春を手に入れた輝かしい高校時代はあっと言う間に過ぎ去り、違う大学に進学した私達は幾度と無くトライアル・アンド・エラーを繰り返した末、晴れて交際することになった。
高校の時のように毎日顔を合わせるなんてことはない、そんなわかりきっていた当たり前のことを今更寂しいと身を以て痛感している。
研磨と過ごす時間は私の中でいつの間にか当たり前になってしまっていたのだ。
研磨の大学は県境にあり家から通うには少し遠く、ご両親の意向で独り暮らしをしている。
新生活が一段落するまで私はそれを知らされていなかった。

「名前」

私の最寄り駅まで迎えに来た研磨が私を見つけると小さく手を上げる。
進学してから毎日連絡は取っていたものの会うのは久し振りだ。
研磨は小さな声で「久し振り」と呟くと自分の最寄り駅までの切符を私に渡して先に改札を通り抜ける。
早速置いてけぼりを食らった私が急いで研磨の後を追うと今度はホームに続く階段下におり、こちらを振り返って手招きしていた。
今日の研磨は常に私の前にいて何だか落ち着かない。
電車に乗り込むと貰った切符を眺めながら前より遠くなってしまった家に心の距離も開いてしまったのではないかと心配になる。

「…名前、どうかした?」
「ううん、何でもない」

運良く乗れた快速電車はまばらに人は居るが静まり返っており下手に会話もできない状況だった。
何となく居心地の悪さを感じながら電車に揺られること40分、目的の駅へと到着する。

「降りるよ」

研磨に促され私は半歩遅れて着いて行く。
会話がないのは珍しいことではないが今日の研磨は何処かそわそわしているように感じた。

**********

「ここ?」
「…うん」

駅から五分程歩くと小綺麗なアパートの前で研磨の足が止まる。
研磨は丈夫そうな屋根付きの階段を上って一番奥の扉まで進み鍵を開けた。 

「どうぞ…」
「お、お邪魔します」

靴を揃えて部屋に上がる。
間取りは1Kで台所が広めの物件だ。
台所の反対側にはバスルームとトイレ。
そこを通り抜け奥へ進むとベッドと小さな机とテレビと言うシンプルな部屋に辿り着いた。
部屋の角には多種多様のゲーム機器が綺麗に並べ置かれている。
この辺りは大学生になっても変わらぬ唯一の趣味らしい。

「まさか研磨が独り暮らしとはね…」

何故だかホロリとして呟くと当の本人は不満なのか訝しげな表情で冷蔵庫を探っている。
少しすると研磨はグラスに入ったリンゴジュースを二つテーブルに置いた。

「そう言えば昔お昼ご飯にリンゴジュース飲んでたよね」
「そうだっけ?」

ふと思い出した懐かしい時代の出来事を口にするも明らかに知らぬフリを貫く研磨に笑いそうになるのを抑えてグラスを合わせる。
リモコンを使いテレビをつけて番組表の受信を待っていると研磨が私の隣に腰を下ろした。

「おれ、無くしそうで不安だから…」

何の脈絡もなく振られた話題に眉根を寄せて研磨を見る。
すると研磨は机の端にあった封筒を私の前にずらして置いた。
私は不審に思いながら封筒を手に取り少し重みのある中身を引っくり返して取り出す。

「…名前は鍵係ね」

研磨の言葉と共に掌に転がったのはリボンの付いた合鍵だった。
予想だにしていなかったプレゼントに思わず固まる。

「え、いいの?」
「…これからもおれの面倒見て」

三角座りをして膝に顔を埋めながら視線を泳がせる研磨はとんでもなく可愛くてニヤけそうになる表情筋を引き締め一度深呼吸する。

「こんなの貰ったら私、勘違いしちゃうよ?」
「…どんな?」
「だから、その…ご飯作りに来たり、とか…」
「お嫁さんになる練習?」
「…あああ!!もう、馬鹿!」

研磨からのまさかの攻めの言葉に私はリンゴジュースを一気に飲み干すと音を立ててグラスをテーブルに置いた。
隣で研磨がすこし笑っていたような気がしたけれど悔しいので見なかったことにする。

「ジュースのおかわり下さい!」
「自分でやって」

私は小さな真鍮製の鍵をそっとポケットにしまった。

   <<clap!>>