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Trapping(黒尾)

例年通り、雪のチラつく寒い日だった。
成人式を終えた新成人達が流れるように駅に詰め寄せる。
別段仲良くもない人達と再会の喜びを分かち合うなんてことの意味がわからない私は人混みを避けるようにして改札に滑り込むと寄り道すること無くそのまま帰途に着いた。
家に着くや玄関先に腰を下ろして堅苦しい草履を脱ぎ捨てる。
ついでに足袋も脱いでしまおうと小鉤を外していると突如自分に落とされた影にゆっくり振り返った。

「お帰りー」

見上げた先にいたのはひらひらと手を小さく振るクロさん。
私は然程驚きもせずどうもと他人行儀に返した。
この人が何故うちにいるのか、話は一時間前に遡る。


―――一時間前。

「と言うわけで何処にも行く予定はないって聞いてるわ」
「そうなんですね」
「よかったら鉄朗君、名前の晴れ姿見に来ない?」
「えっ、いいんですか?」

どうやらクロさんは周りから固めるタイプらしく、私の知らぬ間に連絡先を交換していた母とクロさんは気付けばとても良好な関係を築いていた。
私が成人式を見に来られるのを嫌がったのにすぐ諦めたのはこう言うことだったのか。
私はいつも通りのため息を溢すとクロさんを無視して部屋に上がる。
部屋の扉に鍵を掛けると何の躊躇もなく固い帯を緩め重たい振り袖を床へ落とした。

**********

普段着に着替えリビングへ降りるとそこには私の前では見せない他所行きの笑顔で母と談笑するクロさんがいた。
残念なことに母は既に攻略されてしまったようだ。

「あれ、脱いだの?似合ってたのに」

私の姿を見るなり全然そうは思ってなさそうな表情でクロさんは言う。

「動き難いの嫌なんで…」
「折角お金かけてるのにねー、この子ったら」

そう尤もなことを言い残し母は気を利かせて席を外した。

「まだ早いしどっか出掛けようぜ」
「え、寒いから嫌です」
「まーまー、そう言わずに」

私の経験上、クロさんの意見が通らないことはない。
そして今回も例に漏れず押しの弱い私は言われるがままに外出をすることとなった。

**********

「お子様にはまだ無理かねー?」

こんな常套句でも名前を煽ればすぐにムキになって張り合って来ることは目に見えていた。

「私達一個しか違わないですよね?」

案の定火の着いた名前に内心ニヤリとする。
駅前の個室居酒屋はまだ早い時間だからか空いており、唯一奥の広間だけが成人式後の同窓会にでも使われているのか少し騒がしい。

「と、取り敢えずビールで」

この様子じゃ碌に友達と飲みに行ったこともないのだろう。
そう言えば名前が誰かと出掛けると言うのはあまり聞いたことがない。

「んじゃ、俺も」

タッチパネルを操作するとすぐにお通しの枝豆と共に二人分のビールが運ばれて来た。
慣れない様子の名前と乾杯した俺は見せ付けるように先にグラスの中身を半分程減らす。

「何食う?」
「もつ煮さえあれば…後はお任せで」
「じゃあ適当に頼んじまうぞ」

チラリと名前が俺のグラスを見た。
コイツは普段は一匹狼気取りだが、自分の知らない領域に関しては気を許した相手に合わせる癖がある。
それを見越しての俺の行動は見事に功を奏し、パネルを操作しながら名前に目をやるとグラスに手をかけ一生懸命ビールを減らしていた。
酒に弱いのか、その頬は早くも上気しているように見える。

「おやおや?そんな無理して大丈夫なんですか名前チャン」
「別に、無理してません」

その一生懸命な顔が面白くて俺は残りのビールを飲みきり二杯目を注文した。
すると名前も追うように新しいグラスに手をつける。
運ばれて来たつまみを口にしながらそれを繰り返して行くと五杯目が運ばれて来たところで遂に名前が机に突っ伏した。

「うーん…」
「おい、大丈夫かよ」
「へーきです、へーき」

耳まで真っ赤になった名前の顔は式の時のままのメイクでいつもより少し色っぽい。
暫く放置して様子を見ながら一人でつまみを片付けていたが回復の余地がないと判断し、会計を済ませて今にも寝そうな細い腕を掴み立ち上がらせる。

「ほら、行くぞ。酔っぱらい」
「酔っぱりゃってません」
「ハイハイ」

肩を貸して千鳥足の名前を支えながら外に出ると一度は止んだ筈の雪がまた降り出していた。
吐息は真っ白に染まりいくら火照った身体とは言え、正直寒い。

「クロさーん」
「何ですか名前サン」
「寒いー」
「俺も寒いわ」

大粒の雪が地面に落ちては重なりアスファルトは白くなり始めていた。
これは積もるな、なんて思っていたら突然名前が俺の手からするりと抜けて先を駆けて行く。

「おい、転ぶから止めとけ」
「寒いの無理です。どこか暖かいとこ、行きましょう」

これは誘っているのか。
男なら誰だってそう思う筈だ。
まあ相手が相手なのでその可能性は無いに等しいわけだが、このチャンスを逃したら次いつ訪れるかわかったものではない。

「じゃあ行くか、暖かくて楽しいトコ」

俺は甘い言葉で名前を誘惑しその手を取ってホテル街へと足を向けた。

   <<clap!>>