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ブルーライト横浜(月島)

ちゃんと付き合い始めてから初めてのデートに私は心踊らせていた。
普段なら絶対に着ないであろう短めのワンピースにショート丈のジャケットを羽織り、少しでも月島に近付けるようにと10cmのピンヒールで背伸びする。
慣れない傾斜に変な力が入る脚に鞭打って精一杯踏ん張り綺麗に歩くよう努めては平静を装いつつ早足で待ち合わせ場所に向かった。

「お待たせ」

先に来ていた月島が携帯に落としていた視線を私に移す。
するとこちらを見るなりすぐに視線を泳がせ不機嫌そうに眉根を寄せた。

「行くよ」

早速何かやらかしたかと口を開きかけるも私の声が出るより先に月島は私の手を引き一歩先を行く。
咄嗟のことにうっかりバランスを崩しそうになるとヒールに不慣れなことがバレたのか、途端スローペースになる歩調。
そして混雑して長蛇の列を作るエスカレーターを無視して海風の強い隣の階段を少しだけ上ると動く歩道に乗るや繋がれた手はあっさり解放された。

「結構待った?」
「別に…」

急に離され文字通り手持ち無沙汰となった私の手は宙を掴みそれを誤魔化すように鞄の持ち手に触れると軽く肩に掛け直す。
今日はこれから横浜の高層ビルでディナーだ。
初めて行くドレスコードがある店に少し緊張した面持ちで昨夜調べに調べたテーブルマナーを思い出す。

「フランス料理だよね?」
「そうだけど」
「マナーとか…」
「普通にしてれば良いんじゃない?」

その普通が私の中ではまだインストールしたての曖昧な情報なのだ。
自信なく肩を落としイメージトレーニングをしていると動く歩道を何度か乗り継いだところで目的のビルの入り口に辿り着く。

「ナイフとフォークは外側から使えば問題ないし、最悪僕の真似でもしてたらいいんじゃないの」

言いながら回転扉を先に通り抜ける月島は少し馬鹿にしたような笑みを貼り付けていた。
不満げに膨れながらもその後を追い大理石の壁を見上げながら歩いて行くと高層階用のエレベーターホールに着き、レストランの階を確認してから上行きのボタンを押す。
上の階で止まっていたランプが動き出すのを横目にその僅かな待ち時間で壁の鏡に映る自分の姿を見て何処か可笑しなところはないかと最終チェックをしていると「何やってんの」と冷ややかな視線を頂いてしまった。

降りて来たエレベーターに先客は誰も乗っておらず、乗客は私達の他に一緒にホールで待っていた体格の良い中年男性が三人。
前に並んでいた私達は自然と奥に押しやられ、月島が壁沿いに細長い腕を伸ばすと同乗者の押したボタンの二つ上のボタンが明るく光る。
前面を塞がれた私は奥で身を潜めるようにして高速で数字が増えて行く階数の表示画面を眺めていた。
すると、ふと月島が身を屈めて視界を遮る。

「え、なに…っ」

問うより先に重なった唇に何が起きたか理解できないまま私が一人フリーズしていると目的の階に着いたらしい中年男性達が仕事の話をしながら一足先にエレベーターを降りて行く。
すっかり広くなった箱の中で月島は何の悪びれもなく私を一瞥し壁に背を預けた。

「……」

束の間の沈黙。
たった二階分の時間がこんなにも長く感じられるとは思ってもみなかった。
緊張に緊張が重なり窓硝子に映る月島を盗み見る。
するとそれを見越したように待ち構えていた月島の視線に捕まった。

「言い忘れてたけど…」

言葉の途中でエレベーターが止まり、到着を伝える音が鳴る。

「夜景の綺麗な部屋取ってあるから、食べた後もゆっくりできるよ」

言い切るやタイミング良く開いた扉から先に降りた月島の背中は何処か活き活きとしていた。
私は呆然とし危うく閉まりそうになる扉から慌てて抜け出ると月島に続いて店へと向かう。


夜はまだ始まったばかりだ。

   <<clap!>>