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打たれないトス(in音駒高校排球部)

「なあ」
「なんですか」
「俺のいいとこ言ってみ」

午前中の練習が終わり丁度昼休憩に差し掛かるところにお邪魔した私がボールの片付けに勤しむ一年生を横目に体育館に踏み入ると突如クロさんが行く手を阻んだ。
そして投げ掛けられたのがこの質問だ。
至極どうでもいい話題にうんざりして私はクロさんの横を通り過ぎる。

「なあ」
「ホント何なんですか急に」
「お前、いつも俺に悪態吐いてばっかだろ。名前はもう少し先輩を敬いなさい」
「別にクロさんだっていいところくらいありますよ…」
「例えば?」
「……」
「……」
「つ、爪の形とか?」
「はあ?!」
「名前、それ褒めてない…」

後ろで文句を言うクロさんを無視して最近定位置化しつつあるステージ横の階段に腰を下ろす。
近くの小窓から入って来る風が心地好い。
今日は昼食にコンビニのおにぎり一つと竜田揚げを持参した。
冷める前にと耐油紙に挟まれた竜田揚げを取り出し包みを開く。

「あー!名前さん竜田揚げ派なんですか?」

失礼にもこちらを指差しながら駆け寄って来たのは犬岡だ。
名前通り犬のような性格でリエーフ同様私が訪れる度によく絡んで来る。
彼もまた、屈託のない笑みを溢す純粋無垢で威勢の良い後輩だった。

「俺は唐揚げ派ッス!」
「唐揚げも美味しいよね」
「お昼、それだけッスか?」
「う、うん。あとおにぎり」

多少勢いに気圧されつつ答えると犬岡は私の座る階段下に腰を下ろして弁当を広げ出す。
そして弁当箱に入っていた大量の唐揚げの中から一番大きいものを楊枝に刺してこちらへ差し出した。

「はい、一つどうぞ」
「ありがとう」

竜田揚げを一度耐油紙に戻して受け取ると犬岡は催促するような視線でじっと私を見つめた。
暫しそのまま固まっていたが根負けし、渋々唐揚げを口に入れる。

「…美味しい」
「よかった。じゃあ俺向こう戻るんで!」

唐揚げの布教に満足したのか彼は弁当箱を閉じると同じ一年生の元へと戻って行った。
まるで嵐のような男だ。

「…犬岡に何かされなかった?」

振り返るといつの間に来たのかステージの端に腰掛ける研磨が私を見下ろしていた。

「うん、大丈夫。唐揚げ貰っただけ」

楊枝をコンビニ袋に入れて残りの竜田揚げを頬張り、さっき買ったばかりだと言うのに既に温くなってしまったお茶で流し込む。
続けざまにおにぎりのパッケージを破ると海苔の粕がパラパラと床に落ちた。

「あら…」

私はおにぎり片手に一緒に入っていた使い捨ておしぼりで床を拭く。
隣の研磨はその様子を静かに眺めていた。

「研磨の昼御飯は?」
「…さっきリンゴジュース飲んだ」
「それだけ?」
「うん…あんまりお腹空いてない」
「そっか」

おしぼりをひっくり返して付着した海苔を確認しコンビニ袋の中に投げ捨てると、残り半分となったおにぎりを見て食の手を止める。
暑さと言うのは食欲をも奪うのだろうか。
俄に吐き気を催した私は胃袋をさすりながらビリビリになった包装紙で再度おにぎりを包み、先程同様にコンビニ袋へ押し込む。
生温い空間で暫く壁に背を預けて休憩していると遠くでクロさんの声がした。

「おーい研磨、3対3やんぞ」
「…全然やりたくない」

気乗りしない表情で一人ごちた研磨だったが、再度クロさんに指名されるとため息を吐きながらステージから音もなく飛び降りる。

「休憩中は休みたいのに…」

研磨が重い足取りでクロさんの元へと向かう。
その先には体力の有り余っていそうな面子が待機していた。
ネット越しにはクロさんの他に福永君とリエーフ。
研磨は犬岡と虎君と共にチームを組んだようだ。
気を利かせた芝山が審判に名乗り出て、残った海さんと夜久さんはゆっくり昼食を食べながらギャラリーに徹している。
体育館の端に取り残された私は傍観組にお邪魔してコート脇に腰を下ろした。

「そんじゃ、始めんぞ」
「行きまーす!!」

やる気だけは十分なリエーフの危なっかしい山なりサーブで試合が始まる。
犬岡がレシーブをしボールは研磨の元へ。
研磨は殆ど移動することなく無駄のない動きでトスを上げた。
それに合わせて虎君が飛び勢いよくスパイクを打つ。

「オラァ!」

しかしその先には絶妙なタイミングでブロックに飛ぶクロさんがしたり顔で立ちはだかる。
決まったかと思われたスパイクはクロさんに阻まれボールはあっさりと床に落ちた。

「ウエーイ」

なんだ、ちゃんとカッコいいじゃないか。
そんなことを思ってしまった自分に後悔しているとクロさんが得意気にこちらを見て何か伝えるように唇を動かした。
私は無意識に握り締めていた拳を解く。

「…研磨、早くクロさんをやっつけて」
「…?」
「何でそうなる」


(惚れた?)

恐らく彼が口にしたであろうその言葉は音にならずに消えた。

   <<clap!>>