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色付いた硝子(in音駒高校排球部)

今日は風もなくアスファルトからは熱気が立ち上っている。
蒸すような暑さに履き掛けていたいつものスキニージーンズを脱ぎ捨て、ローライズの七分丈に履き替えた。
シンプルなタンクトップに日避け目的で黒い薄手のパーカーを羽織る。
せめて足元だけでもとウェッジソールのサンダルで幾らか涼しさを取り入れた。

「あっつ…」

燦々と照りつける太陽に早くも顔面が溶け出しそうだ。
元々メイクは薄い方だがこんなことならしてこなければ良かった。
ファスナー全開のパーカーをはためかせながら半月振りの通学路を歩いていると地域猫とすれ違う。
真横を通っても特に焦る様子もなく落ち着いた足取りの三毛猫は塀を飛び越え空き地の雑木林へと消えて行った。

**********

「ネットもっとピンと張れー!」

私が体育館に着くと丁度バスケ部が帰った後の反面にネットを張っているところだった。
体育館の小窓から覗き込むとクロさんがその指示を出しているのが見える。
もう反面ではサーブの練習が行われており、その列にはやる気の無さそうな研磨が並んでいた。
時折吹き出て来る空気は汗やら熱気やらで異様な臭いがしたが、堂々と扉から入って行く度胸もないのでその場に留まることを決め、屈めていた身体を落としてしゃがみこむ。
午後一のこの時間、直射日光を避けることなどできる筈もなく、頭上からは焼けるような日差しが降り注いでいた。
暫くじっと練習を見ていた私だが、頭皮に限界を感じると共に顔の火照りに気付き熱中症を警戒する。

「…ジュースでも買いに行こう」

そう決めて体育館から目を離すとその瞬間をまるで狙っていたかのようにボールが飛んで来た。

「うをっとぉ!」

驚いてつい変な声が飛び出し思いきり尻餅をつく。
長時間底上げの靴でしゃがむなんて無謀だった。

「いたた…」
「大丈夫スか?」

小窓の鉄格子に跳ね返ったボールを拾い上げた長身の男に気付かれ声を掛けられる。
しまったと慌ててその場を去ろうとするも変な体制でいた所為か足が痺れて動けない。

「黒尾!リエーフがまたサボってんぞー」
「え!?誤解です!」

弁解しようと振り返る彼を尻目に今がチャンスとばかりに体勢を立て直し逃げようと試みる。
が、そうは問屋が卸さない。

「あれ?この間の…」

早速次なる敵に見つかってしまった。

「なんだなんだ?」
「じょ、女子…だと!?」
「黒尾さーん!お客さんですよー!」

窓越しに私の姿を確認した部員達が扉からひょこひょこと顔を出す。
あっと言う間にギャラリーが集まり私は体裁が悪くなって視線を泳がせた。
そして最も見つかりたくなかった男が現れる。

「え、何でいんの?」
「いたら悪いですか」

もう逃げる必要のなくなった私は臀部の砂を叩き落としながらゆっくりと膝を伸ばした。
まだ痺れが完全に取れた訳ではないが大分楽になったように感じる。
クロさんは他の部員達に体育館へ戻るよう指示すると腕組みして私を見下ろした。
そして何かを察したように私と研磨を交互に見る。

「研磨、お前知ってただろ」
「…なんとなくは」

**********

逃げ場を失った私は促されるまま体育館にお邪魔する。
先程私の所為で中断してしまった練習は既に再開されており、館内には床に擦れる靴の音とボールの跳ね返る音がけたたましく響いていた。

「で、何しに来たのかな?名前チャンは」
「暇潰しに来ただけです」
「えー、マネージャーになりに来たんじゃないのー?」

わざと"マネージャー"と言う単語を強調するクロさんの言葉に反応していくつもの視線が突き刺さるが気付かないフリをして話を続ける。

「やりませんよ、そんな面倒臭いこと」
「それはザンネン」

途端、心なしか落胆の声が聞こえた気がしたが私の知ったことではなかった。
ステージ横の階段に腰掛けてコートを見回す。
もう足は痺れていない。

「でもまあ、たまに見に来ます」

クロさんから見えないように顔を背けながら呟くと転がったボールを追いかけてタイミング良く研磨がこちらへとやって来た。

「あ、研磨!」

研磨はビクッとしてこちらに振り返る。

「終わったら三人で一緒に帰ろう」

先日の誘いに応じるように今度は私が誘いの声を掛けた。
研磨は小さく頷くとボールを拾って走り去る。
隣のクロさんは珍しく黙ったままだ。

「……」
「と言う訳なんですが、何か異論はありますか?」
「お前…」
「なんですか」
「いや、やっぱ何でもねぇわ」

歯切れの悪い返事をしたクロさんは練習が終わる時間を私に伝えてから練習に戻って行った。
流石にずっとは居られないので一度学校を後にする。
今日こそこの間買いそびれたあの新刊を手に入れよう。

夕方再び体育館に姿を見せる私がいた。

   <<clap!>>