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灯台下暗し(及川)

※キャラの家族設定を捏造しています。
 大丈夫な方のみどうぞ。


青城三年メンバーでミーティングと銘打ったカラオケに行く約束をしていた俺は、今日に限って珍しく早く家を出ていた。
いつもギリギリに着いて岩ちゃんに怒られるから、今日くらい先に着いて「遅かったね、岩ちゃん」とか得意気に言ってやろう。
そう意気込みいつもより前のめりに歩みを進める。


「ねー、いいじゃん。ちょっとくらいさ」
「急いでるので」
「じゃあ番号教えてよ」
「生憎携帯電話は持ち合わせておりません」
「またまたぁ」

待ち合わせ場所を目前にして胸糞悪い現場に居合わせてしまった。
今日は祝日の月曜と言うこともあり出歩く若者達は皆気心知れた仲間と固まっていて、とてもじゃないが他人が介入できるような雰囲気ではない。
故に一人でいたこの女性に目を付けたのだろう。
人目も気にせずしつこくナンパをする男が自棄に悪目立ちしていた。
もしここに岩ちゃんがいたら「お前も似たようなもんだろ」とか言われちゃいそうだけど…
そんなことないもんね!
この及川さんに声を掛けられて迷惑な女の子なんてこの世にいないんだから!

それはさておき、かれこれ5分くらい経過しただろうか。
適当に逃げない辺り根が真面目なのか、それとも家が近くてバレたくないのか、彼女もなかなか振り切れずに困っているようだった。

「じゃあ取り敢えずお茶でも…」

強引に話を進めにかかった男の手が彼女に触れる。
その瞬間、彼女の目の色が変わった。

「っ、しつこい!」
「!?」

突然の出来事にその場が一瞬静まり返る。
冷静に対応していた彼女が痺れを切らし、手にしていた金具の装飾が沢山ついた鞄で思いきり男の顔を殴ったのだ。

「イタイっ!」

…思わず見ている俺が声を上げてしまった。
彼女がこちらに気付き俺を一瞥する。
その隙にナンパ男は「なんなんだよ、クソッ」と捨て台詞を吐きながら逃げるように去って行った。
そこだけが切り取られたような空間だったのは一瞬のことで、街は早くも喧騒を取り戻している。
彼女は触れられた肩を埃でも払うかのように軽く叩きながら身だしなみを整えこちらに近付いて来た。

「君、ずっと見てたよね」
「え?」
「さっきの奴とグルとか?」

あれ?及川さんピンチ?
何やらとんでもない勘違いをされているようで。
取り敢えず、顔面バッグは勘弁してほしい。

「まっさかぁ」
「喋り方とか、軽そうな所とかそっくりなんだけど」

大きなアーモンドアイを細め訝しげな表情で見上げて来る彼女の身長はヒールを履いている所為か俺と10cm程度しか変わらなかった。
間近でよく見ると薄化粧で整った顔立ちをしている。
高めの身長に華奢な体躯。
そしてこの猫のような凛とした顔。
今まで沢山可愛い子は見て来たがこの人は綺麗な"女性"だった。

「あれ、何かタイプかも」

思わず口を衝いて出た言葉にしまったとすぐさま口元に手を当て視線を泳がせるが後の祭り。
一瞬見開かれた彼女の目が直ぐに不機嫌に細められて行く。

「さっきの人より質が悪いことはわかった」
「あれ、ごめん。違う!」
「何が違うの」

異性相手に珍しく焦っている自分に苦笑しつつ俺もさっきの男と同様に鞄の餌食になるのではないかと大きな身体を縮めて身構える。
するとまるで見計らっていたかのようにタイミングよく電話が鳴った。
岩ちゃんからだ。

「も、もしもし」
「テメェ何やってんだクソ川!!待ち合わせの時間とっくに過ぎてんぞ!」
「えっ!先に着く予定だったのにー」
「はぁ?!馬鹿なこと言ってねーでさっさと来い!」

電話の罵声が彼女にも聞こえていたのだろうか、気の所為か鼻で笑われたような気がした。
こんなカッコ悪いところを見られるとは…不覚。

「その様子じゃ、さっきの奴とは関係無さそうだしもういいわ」

意外にも岩ちゃんの電話が功を成し怒りの収まったらしい彼女は俺からスッと離れると鞄を持ち直して俺が今来た道の方へ歩き出す。
もしかしたら意外と近所なのかもしれない。

「あ、ちょっと待って!」

コツコツとヒールの音を立ててポケットから取り出した携帯を弄りながら足早にその場を立ち去る後ろ姿を追い掛け、彼女の前に回り込むと物理的に前に進めなくなった彼女が仕方なく足を止める。

「お姉さんの名前は?」
「答える必要ある?」
「ハァイ、質問に質問で返さなーい!」

いつもの調子で両手を広げて語尾を伸ばすと彼女の苛立ちが目に見えてわかった。

「俺はね、及川徹。こう見えて、高校バレー界では結構有名なんだよ」
「及川…」

もしかして聞き覚えのある苗字だったのだろうか?
オイカワの四文字に反応し復唱する彼女が眉間にシワを寄せた。
しかし今はそんなことを気にしている時間はない。
さっきからポケットの中で何度も震えている携帯が岩ちゃんの言い知れぬ怒りを物語っている。

「そう、及川さん!ほら、俺も教えたんだから教えてよ」

半ば強制的に自己紹介をし彼女にもそれを強要すると埒が明かないと諦めたのか、彼女は弄っていた携帯をポケットにしまい深い溜め息と共にその重い口を開き始めた。

「……名前」
「名前ちゃんね!」
「それで多分君の…」
「おーいーかーわー!」

名前ちゃんが何か言いかけたところで前方から突如名前を呼ばれビクッと俺の肩が跳ねる。
聞き慣れた怒声に恐る恐る顔を上げるとその声の主を確認しようと名前ちゃんも釣られるように振り返った。

「あれ、岩ちゃん。何でここに…」
「それはこっちの台詞だクソ川!何でこんなとこで油売ってやがる!」
「それじゃあ、私はこれで」
「えっ、待って名前ちゃん!連絡先教えて!」
「テメェは人の身内をナンパしてんじゃねぇ!」
「…え?」

岩ちゃんの言葉に呆然と瞬く。
岩ちゃんの身内?名前ちゃんが?
あれ、でもそう言えば昔名前って名前の子がいたような…
え、でもなんで?

「姉貴は結構前に上京して最近戻って来たんだよ。そんでさっきメール来てお前と一緒って言うから何事かと思って走って来たら…」
「まあ、そう言うことだから。久し振り、そしてさようなら及川君」
「ちょっと待って!因みにこれはナンパじゃないからね!」
「ナンパじゃないなら何なんだよ」
「んー…運命の再会、かな?」

少し屈み名前ちゃんと視線を合わせてウィンクしてみせると彼女は呆れて無視を決め込みそそくさと実家へ帰ってしまった。
その後ろ姿をからは大人の色気を感じる。

「名前ちゃん、綺麗になったね」
「そうか?」

岩ちゃんは俺の肩を痛いくらいガッチリと掴み他の面子に身柄確保の連絡をしながら興味なさそうに答える。

「岩ちゃん、協力してくれるよね?」
「何をだ」
「俺の恋の協りょ」
「バレー以外でお前と協力する気はない」
「酷い!」

大袈裟にショックを露にしたが実は内心少し安堵している俺がいた。
身元がわかってるって素晴らしい!
なんだかんだで岩ちゃんから情報を引き出せる筈。
俺はこの先どうアプローチして行こうかと心踊らせる。

「あ、でも姉貴お前みたいなタイプ蕁麻疹が出るくらい嫌いらしいぞ」
「何でそう言うこと言うのさ!」

少しだけ残っていた彼女の甘い香りが風に消えた。

   <<clap!>>