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掌の上(研磨&黒尾)

夏休みに入って早くも一週間が経過した。
この調子では直ぐに終わってしまうだろう。
夏休みも、高校生活も。
無論、人生でさえもだ。

**********

大分陽も昇った頃、寝巻のまま台所に向かうと冷蔵庫から昨日の夕飯の残りであるカレーを取り出す。
鍋の縁に着いている部分は固まっているのに具の沈む中心部はスープのようになっているソレにじゃがいもの大いなる力を感じた。
鍋を火にかけている間にご飯を盛り付けスプーンを用意する。
そして午前10時54分、やっとのことで遅い朝食にありついた。

食後はリビングのソファで横になりテレビをつけるが特に面白い番組もなく、日頃の寝不足を補うように眠気が襲い来る。
抵抗することなく目を閉じ静寂を感じていると携帯が震えた。

(なにしてんの?)

画面に表示されているのはクロさんからのLINEだ。
特にマメではないが来たものを自分で終わらせるのを嫌う性格の私は忘れぬうちにと返信を打ち込む。

(夏休みを満喫しております)
(ゴロゴロしてる了解)

……当たっているので返す言葉もない。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか続けざまに携帯が震える。

(昼飯、研磨と行くんだけどお前も来る?)
(クロに拉致される。助けて)

ホント、こいつらの関係って…
長いこと家に篭りきりだった私はぐっと伸びをして天井を仰いだ。
そう言えば、今日は欲しかった書籍の発売日だ。
重い腰を上げ部屋に戻るとクローゼットを開けながらいつもより膨らんだ腹部をさする。
その間にも震え続ける携帯に視線を落とすと手前勝手なメッセージが目に入った。

(13時に駅前な)
(私の意思とは?)
(もう休憩終わる。ちゃんと来いよ)
(じゃあ奢りでお願いします)

(研磨、私も強制連行されそう)
(ご愁傷…)
(え、)

押しに弱いと言うかなんと言うか…
結局待ち合わせの5分前に駅前に来ている自分に嫌気が差した。
不機嫌を装い眉間にシワを寄せたまま壁に背を預けていると、近くのコンビニから先に着いていたらしい一際目立つ長身黒髪と猫背な金髪の組み合わせが出て来る。

「ちゃんと来たな」

部活帰りの彼らは赤いジャージを着ていた。

「まあ、暇だったので…仕方なく」
「お前ホント研磨みたいなこと言うのな」
「おれは暇じゃない…」
「どうせ帰ってゲームするだけだろ」

久々なやり取りに何処か安堵する自分がいた。
最近は例の友人も部活だの恋だのと多忙そうで昼こそ一緒に食べるものの碌に会話をしていない。
そんな今、私のコミュニケーションツールは悲しいかな最早この二人に限られていた。

淡つかな私達をお構いなしに連れて来られたのは駅前にある牛丼の有名チェーン店。
外から店内を覗き込むとスーツ姿のサラリーマンや中年男性が多く見受けられた。
学生らしい人もちらほらいたが女性の姿は無いように思う。

「全然食べたくない…」
「私も朝食が遅かったもので…と言うか一応私女子なんですけど」

研磨と私のテンションが更に落ちる。

「なんだよ、文句ブーブーだな」
「暑いし帰る…クロ一人で行って来て」
「私も本屋寄って帰ります」
「おい、ちょっと待てって!」

解散を示唆してクロさんの元から離れるとクロさんは焦ったように私達を引き留めた。

「じゃあ何ならいいんだよ」
「…アップルパイ」
「竜田揚げ」

聞かなきゃよかったとクロさんが頭を抱えた。
時期的にも時間的にも駅周りの飲食店なんて何処も混雑しているに決まっている。

「じゃあコンビニで買って帰りましょう」

これでは収拾がつかないと踏んだ私が提案する。
すると何を勘違いしたのかクロさんが「名前ってば積極的ー」と貼り付けた笑みを携えて私の肩を叩いた。
これはわかっていてわざとやっているに違いない。

「一応言っておきますけど、うちで食べる訳じゃないですからね」
「じゃあちゃっちゃと買ってお邪魔しますか」
「聞いてます!?」

私の意見など通る筈もなく、コンビニで食べ物と飲み物を調達すると目当てだった書籍のポスターが貼られている本屋を横目に帰途についた。
一歩後ろを着いて来る研磨から心配そうな視線を感じ、思わず「大丈夫だから」と彼にだけは優しく声をかけると、それを聞いてニヤリとしたクロさんが目に入ったが見なかったことにする。

まさか初めから仕組まれていたのでは?
疑念を抱いた私は故意に考えることを止めた。
ああ、今日もいい天気だ。

   <<clap!>>