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心の隙間(研磨)

あの数奇な出会いから私達は時折顔を合わせては言葉を交わし、曲がりなりにも親交を深めて行った。
とは言え、一方的にクロさんが絡んで来る感じではあるけれど…

ある日、クロさんと研磨の馴れ初めを聞かされて妙に納得した。
子供の頃と言うのは割と誰にでも突っ込んで行けるものだ。
それが大人になるに連れ人との距離を気にするようになる。
ある程度の人格が形成されると守りに入るのだ。
友達と言うのは子供の頃に作ったもん勝ちなのだと今更犇々と感じていた。
私はこのまま大人になってしまうのだろうか。
高校に入学してからどんどん大人になって行く身体と成長しきれていない微妙な心。
子供と呼べる時間のリミットを感じていた。
貴重な筈のその時間は今日もまた一日を終えようとしていた。
帰りのHRが終わり鞄に荷物を詰め込んでいると隣の席の唯一仲の良い友人が私の方へ向き直り

「じゃあ名前、また明日ね」

そう言って急いで部活へと走り去って行った。

「うん、また明日」

その背中に軽く手を振る。
彼女とは小学校からの付き合いだ。
元々学力や容姿のレベルは同じ。
無気力組なのも同じ…筈だった。
彼女はどうも高校に入ってから変わってしまったように思う。
改めて考えるとそれが思春期と言うやつなのかもしれない。
今の彼女は吹奏楽部に所属し、おまけに恋までしている。
何も熱中することのない自分とどんどん距離が開いて行くようで、一人だけ立ち止まったまま置いて行かれてしまうようで、もやもやとしたものが心に渦巻いていた。

**********

「あ、名前…」

下校途中、学校の敷地に沿うように歩いているとフェンス越しに斜め後ろから声を掛けられた。
呟かれた、と言った方が正しいかもしれない。
どうやら部活のランニング中らしい研磨は汗一つかいておらず、どう見てもそのスピードはそれの早さではなかった。

「研磨、それ走ってるの?」

かなり先の方にジャージ姿の集団を確認しあちらが本来のペースなのだろうと思わず笑いながら問う。

「…おれ、疲れるの嫌だ」
「じゃあなんで運動部なんか入ったの?」
「クロに誘われたから…仕方なく」
「何部だっけ…」
「…バレー部」

こんなことを言ってはいるが彼は彼なりに楽しいから続けているのだろう。
ちゃんと部活に参加はしている辺り、どうやらただの無気力男子ではなかったようだ。
しかし気付けば彼の速度は歩く私と同じ早さまで落ちていた。

「走らなくていいの?」
「ちょっと休憩」
「休憩する程走ってないように見えるけど?」

全く息の上がっていない彼は少し拗ねたような顔をした。

「名前はさ…しないの?部活とか…」
「そうだね、今のところは考えてないかな」
「おれもそうなりたい」

それはそれで寂しいよ。言葉にならない気持ちが顔に出たのか研磨が不思議そうに視線を寄越す。

「おい、研磨!サボんな!!」

しかしその空気をぶった切るように先程より更に距離の開いた集団から痺れを切らせたクロさんの怒鳴り声が響いた。

「はぁ…」

研磨の深い深いため息が漏れる。

「クロさん威張ってるなぁ」
「…あれでも一応主将だからね」
「えっ、そうなの?…ご愁傷様です」
「うん」
「おい、お前ら!今なんか絶対失礼なこと言っただろ!」

大きな声に肩を竦め心底面倒臭そうな顔をした研磨だったが、なんだかんだで憤慨するクロさんの元へと走り出す。

「…またね」
「うん、また」

クロさんがまだ何か言いたそうな雰囲気を醸し出していたが、敢えて応じずに研磨の丸まった背中を見送った。
最近人の背中ばかり見ている気がした。

**********

「クロ、声大きい…」
「普通に話したら聞こえないフリするだろうが」
「…そんなことない」
「で、何話してたんだ?」
「秘密」
「反抗期か」

   <<clap!>>