×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
箱庭の出会い(研磨&黒尾)

午前最後の授業の鐘が鳴る。
温暖化の激しい昨今。
冷房の効きが悪いのか、それとも設定温度自体に問題があるのか。
折角の昼休みも台無しな程に蒸し熱い教室では誰もが項垂れていた。
私も例外ではなく、制服の胸元をパタパタと扇ぎながら机に突っ伏している。

「あっつ…」

生憎いつも一緒に昼食を摂っている友人は今日欠席だった。
元々人付き合いが苦手な私は他に声をかけてまでご一緒したい人もおらず、早々と一人で弁当を食べきると、どうにも居辛いこの空間から抜け出すことにした。

(取り敢えず屋上でも行ってみるか…)

深く考えずにいくらか人の捌けている階段を上って行く。
しかしあと少しと言うところで先客の声に気付き足を止めた。

「あれ?鍵開いてなくね?」

三年生だろうか。
黒髪長身の男がガチャガチャとドアノブを壊れんばかりに回している。

「だから言ったのに…」

一方、もう一人は金髪で別に小柄ではないのだろうけれど華奢な身体つきだ。
何だか対照的な印象を受けた。

「チッ、もうちょいで開きそうな気ィすんだけどな…って、一人で帰ろうとすんなよおい!」
「だって、別に屋上行きたかった訳じゃないし。無駄に動くと疲れる」

どうやら性格も対照的なようだ。
早くも諦めた金髪頭が階段を下ろうと踵を返す。
すると、うっかり目が合った。

「……」

勿論知り合いでも何でもない私達は言葉を交わすことはなく、彼の長い前髪の隙間から覗く猫のような目は私を捉えるとすぐさま視線を逸らした。
そしてそそくさと私の隣を通り過ぎ階段を下りて行く。

「おい、研磨!」

扉の前に取り残された黒髪の人が振り向き様に彼の名前を叫んだ。
先に掛け降りた彼は一つ下の階から私達の様子を窺っている。
まるで猫のようだ。
それを見るや黒髪の人も小さくため息を吐いて階段を下り始める。

「お前もココに用だった?残念だけど鍵開いてねーんだわ」
「そうみたいですね」

黒髪の人は私の存在に気付いていたようで、私を見ても全く驚かずにそう告げると研磨と呼ばれていた彼と何処かへ行ってしまった。

**********

翌日も友人は欠席だった。
夏風邪は馬鹿が引くと言うが彼女の成績は極めて優秀だった。残念だ。
そんなことを考えながら私は昼休みになるとまた教室から逃げるようにして外へ出ていた。
昨日屋上は駄目だったので今度は裏庭の日陰スポットへ…

「お前さ、何で俺が居んのにゲームすんの」

何だか聞いたことのあるような声がした。

「おれは別にクロと居たい訳じゃないし…クロが無理矢理連れ出すから…」

昨日の二人組だった。
黒髪の人はクロと呼ばれている。
見かけ通りと言うかなんと言うか…
会話の内容からして片想いの友情なのかと心配になったのは言うまでもない。
そんな突っ込みどころの多い二人を横目にまた先を越されてしまったかとその場を去ろうとしたが、結構な近距離にいたこともあり呆気なく見つかってしまった。

「おやおやおや?昨日のお嬢さんじゃないですか」
「…どうも」

"クロさん"の方は人見知りしない性格なようで軽く声を掛けてくる。
私の苦手なタイプだ。

「二日連続で会うなんて運命か何かか?」
「ただの偶然だと思います」
「クロ、恥ずかしいから絡まないで」
「仲が宜しいんですね…」

何とも言えないやり取りに苦笑する。
"研磨さん"の方は話ながらもずっと視線はゲームに釘付けだ。

「こいつがこんなんだからさ、お嬢さん構ってくんない?」

言いながら彼の視線は今日は外で食べようと思い持ち歩いていた私の弁当箱に移っていた。

「弁当食べる場所探してたんじゃねーの?」
「そうですけど…」
「なに、友達いないの?研磨と一緒だねぇ」

ニヤニヤしながら何故か楽しそうな"クロさん"は「なぁ」と"研磨さん"を肘でつつく。

「はぁ…」

"研磨さん"の深いため息が聞こえた

「まぁ、座れって」

結局流されてご一緒してる私も私だ。

「俺は黒尾鉄朗。3年。クロでいいぞ。こっちのプリン頭は孤爪研磨。で、お嬢さんのお名前は?」
「2年2組の苗字です」
「おい、下の名前も教えろよ。モテねぇぞ」
「クロ…」
「名前です。苗字名前。別にモテなくても構いませんけど」
「へぇ、名前ね」

いきなり呼び捨てか。と言う突っ込みはせずに私は"研磨さん"に話題を振る。

「研磨さんも二年ですよね。昨日廊下で見かけました」
「ぷっ、研磨さんとか…っ、」
「何ですか」
「…研磨でいい。敬語も…そう言うの苦手だから、普通にして」
「まあ、そー言うことで。ヨロシク」

ほぼ初対面の相手と馴れ馴れしくするのは少し抵抗があったがここで揉めるのも嫌なので素直に受け入れることにした。

「ではお言葉に甘えて」
「で、名前チャンは何で一人で飯食ってんの?まさかいじめられっ子?」

クロさんとは敢えて距離を取り研磨越しにコンクリートに腰を下ろすと膝の上で弁当の包みを開きながらため息を溢す。

「クロさんってそう言う絡み方しかできないんですか」
「そう言う絡み方しかできないんです」

ある意味想定内の返答に隣の研磨が心配そうに横目でこちらを盗み見ている。
しかしその視線は私と絡むとすぐにゲームに戻った。

「…クロはいつもこんなだから、あんまり真面目に答えなくていいよ」
「成程」
「何ソレ酷い」

大袈裟にリアクションを取るクロさんは無視して蒸した気温で温くなってしまった弁当に手をつける。
てきぱきと無駄のない動きで弁当を食べて行くとクロさんがつまらなそうにこちらを見ている。

「なーんか無駄な動きが少ないよな。名前って」
「そうですか?」

ご飯が温いのは許せた。
しかしデザートのリンゴまで温まっていたのにはつい眉根を寄せる。
隣ではゲームが上手くクリアできないのか研磨も難しい顔をしていた。

「なんか似てるな、お前ら」

言われてハッとし思わず私達は顔を見合わせたがすぐに各々の世界に戻る。
しかしそれぞれが視線を泳がせたあとまるで示し合わせたように

「「少なくともクロ(さん)よりは」」

と、被った台詞を吐き出した。
クロさんは一瞬吃驚した表情を見せたが、すぐに楽しそうに口角を引き上げた。


▼あとがき▼
多分シリーズっぽくなります。

   <<clap!>>