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全力疾走した後のような倦怠感にしっとりと汗ばんだ肌。
未だ呼吸が整わず脱力したままの私を尻目に月島は手早く避妊具の処理をしていた。
「手慣れてるね」
今度は私が嫉妬を含んだ声色で呟くと
「ノーコメントで」
なんとも言えぬ微妙な反応が返って来た。
しかしそこは敢えて追求しないことにし、口を結んだソレをゴミ箱へ捨てティッシュを持ってこちらへ戻る月島を目で追う。
「拭いてあげようか?」
意地の悪い笑みを貼り付けて問う月島を睨み付け奪うようにしてティッシュを手にするとベタベタして気持ちの悪い部分を大雑把に拭う。
「月島なんか嫌い…」
ボソリと吐き捨て丸めたティッシュをゴミ箱へ投げ入れ、中途半端に脱がされた服をモゾモゾと直しながら背を向ける。
「よがってたクセに」
背後で足音が止まると同時に何の悪びれも無く心底楽しそうに言う。
見なくてもわかる。
その顔にはあの悪意に満ちた笑みが浮かんでいることだろう。
「でもまあ、ちゃんと新品のまま取り置きされてたみたいで安心したよ」
嫌みったらしく溢しながらベッドへ腰かけた月島の方へ重心が少し傾く。
バランスの悪くなった体勢を整えようと私が動こうとするもそれより早くその綺麗な指先がこちらへ伸びて来て、後ろから優しく抱き締められた。
「ちゃんと聞いてないんだけど、言葉で」
「私だって好きとかそう言うのは言われてない」
恥ずかしくて顔が見れない。
でも多分それはお互い様だ。
しかしこうなったら双方譲らない性格なのをわかっている私は長い討論を覚悟したところで一つ溜息を吐き出す。
暫しの沈黙の末、この子供の喧嘩のような空気に耐え兼ねたのか先に折れたのは月島だった。
「チッ………好きだよ、名前」
「何か今舌打ち聞こえたんだけど?」
「言ったんだからいいでしょ、別に。ほら、そっちは?」
「くっ、……好き」
「似たようなものじゃないのそれ」
一区切りついたところでタイミング良く二人の携帯が鳴る。
それぞれの携帯に手を伸ばすと潔子先輩と山口からだった。
「そろそろお開きかな」
言うや月島は携帯を耳につけることなく面倒臭そうに通話ボタンを押す。
予想通り聞こえて来た「ヅッギィィイイ!!」と言う断末魔の叫びのような声に思わず耳を塞ぎながら私は自分の携帯で潔子先輩にLINEを送った。
すぐに来た返信の内容は今目の前の携帯で喚いている声が伝えていることと同じで、何処にいるのかと言う心配と、もう今日は解散すると言う連絡だった。
苦し紛れの言い訳をしつつ参加費の支払いについて話題を変えると既に月島から受け取っているとの返答に何処までも抜け目のない男だと感心する。
他の面子には察しのいい潔子先輩が色々と上手くやっておいてくれたらしい。
謝罪し続けるしかない私に「誰も怒ってないよ、また皆で集まれるのを楽しみにしてるね。」と優しい言葉で収束させる潔子先輩。本当に大好きな先輩だ。
それぞれのやり取りが一段落つくとふと我に返り、私は肝心なことに気が付く。
今までの経験不足が祟ったのかイマイチピンと来ないのだ。
「ねえ、私達これからどうするの?」
好きと言って、付き合って、身体を重ねて…
それで、次は?
「そんなのなるようになるんじゃないの?」
「なるようになる…」
月島にしては珍しく曖昧な答えにどうしたものかと私は思い詰めたように俯く。
「でもまあ、返品したらもう買い手も無さそうだし?それなりに責任は取るつもりだから安心していいんじゃないの」
予想外の言葉に呆けた表情で振り返ると私の顔が余程可笑しかったのか、月島が初めて含みのない笑顔を見せた。
▼あとがき▼
ここまで読んで頂き有難う御座いました。
初作品です。短編のつもりがこの長さになりました…
派生の短編も書けたらいいなと思っています。
2016.04.05 洸
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