short | ナノ






かぶらない理由



「功刀」
「あ?」
「ハッピーバースデー」
ぽん、と軽く投げるように渡された袋を凝視する。色気もなにもあったもんじゃない。
「わざわざよかとね」
「あんたがおらんかったけぇ、あたしこげんよかとこ入れやないちゃ」
桔梗は、そう言って屈託なく笑った。何のてらいも飾りもないこの笑い方が好きだなと仏頂面で思う。人前で笑うのは苦手だ。サッカーをしているときは、無意識に笑みが浮かぶのだが。
それにしても、自分で馬鹿だと認識して豪語するあたり、桔梗はやはりアホだと思った。一人の人間を追っかけて入れるほど柔な学校じゃないはずだ。しかも一般入試となれば、相当な勉強をする必要があっただろう。
「桔梗」
「うん?」
「サンキューたい」
「うん」
桔梗のことだから、プレゼントありがとうだと思っているのだろう。わざわざ言う必要もないし、笑ってごまかした。
「く、功刀ば笑いよった…明日雪が降らんぜ!」
「せからしいわ!」
彼女なら、出任せでもいいから何か気の利いたことを言えないのか。大体桔梗だって人の仏頂面が好きなわけはなかろう。笑って損をした気がして、むすっと黙り込む。
「ああ、ごめんごめん。珍しいけん」
桔梗が笑いながら謝る。
「それより、開けてみちゃ」
「あん?」
「やけん、プレゼント」
それ、と言いながら指を差す。袋の中身は軽そうだ。何が入っているのか、見当もつかない。
「……おう」
開けてみると、普段かぶっているのと少しデザインの違うキャップだった。好んでいることはとっくにバレているのか、迷彩柄で、正面が一面だけ真っ白で、その右下にロゴが入っている。アディダスが好きというのも、桔梗はよくわかっているらしい。
「いつもおんなじのやけん。使っち」
さすがに、中学から一緒だと、何でも解っているんじゃないかと錯覚してしまう。それくらい桔梗は核心をついてくる。
「…適わんたい」
「とーぜん」
ふふん、と少しえらそうに胸を張るので、偶には素直になってみるかと桔梗の頭をなでてやった。
「ふえ!? くくく功刀のおかしくなりよっちゃ!!」
「シバくぞ!!」
殴った。



「あ、カズさん!」
授業が終わると、一度は部活に顔を出したものの、すぐにU-19の練習があるからということで、いつものように電車を乗り継ぎ、競技場までやってきた。
当然制服なわけだが、帽子はいつもの、ではなく、桔梗にもらったものだ。表情には出さないが、実はかなりテンションは高い。
「ショーエイか」
いつだって元気というか五月蠅いというか、と目を細めながら、一つ下のショーエイを見つめた。
「カズさん早かですね〜…お? カズさん、帽子変えよーですか?」
きょとんとする。
「……わかりゆうがか?」
「そりゃほぼ毎日見てるけん。あんま馬鹿にせんとですよ!」
ショーエイに気付かれたのは完全に予想外だったが、悪い気はしない。
「かっこよかですね! なんばしよっとです?」
「もらっちゃあ。桔梗ばに」
「桔梗ちゃん? なんぜ?」
「……関係なか。ショーエイ、着替えせろ」
さすがに大して仲がいいわけでもないショーエイに桔梗ちゃん、などと呼ばれていらっとしたので、ショーエイの脛を蹴り飛ばしてやった。





(あれ? カズさん帽子変えゆうですか? せっかくもらっちを)(せからし! おら、いかんぜ!)(あ、うっす!)

(まさか、練習中にかぶらんけん理由が汚したくないからだなんて言えんがよ!)