short | ナノ






ANHAPPY BIRTHDAY



「フレッド!! 今日は俺の何でもない日だ!」
「何だって? 実は俺もさジョージ!!」
『つまり今日は僕らの何でもない日!!!』
「煩い!!!」

十一月ももうそろそろ終わり。
ホグワーツも雪が積もりはじめ、双子のフレッドとジョージによる(巻き込まれ)雪合戦は一種の風物詩だ。
しかし今日は快晴で、半端に溶けた雪も固めにくい。
とはいえ、彼らの辞書には『休日』などと言う文字はないのだろう。寮にいるならいるで、毎度騒ぎを引き起こすのがフレッドとジョージなのである。
今日は人影もまばらな談話室で突然立ち上がり、叫びだした。
まあアホらしいことである。それをさも当たり前のように大音声で叫ぶものだから、ハーマイオニーが舌縛りの呪いをかけるよりも早く、アイリスがぶちぎれた。

「何でもなくてもいいから、静かにしてちょうだい!!」
「アイリスがいま一番煩いと思うけど」
「黙らっしゃい!」

ニヤリとすかさず揚げ足をとってくるフレッド(あるいはジョージ)にぴしゃりと言い放つと、ジロリと二人を睨みつけた。
二人の突然の行動に驚き、インクを盛大にこぼしてしまった魔法薬学のレポートをくしゃりと丸め、暖炉に放り投げると、アイリスはぎしと椅子をならせて振り返った。

「だいたい、あなたたち宿題は?」
「とっくさ」
「僕らは後に心配を残さないのさ」
「まあ…あなたたちが『心配』だわ!」

余裕たっぷりに、ズル休みボックスの新味を試食しながら答える双子に、アイリスは呆れてものも言えなくなった。
関わるだけ無駄よ、と言うハーマイオニーの言葉に頷くと、アイリスはため息をついてテーブルに向かった。
そしてすぐに振り返った。

「な……今度は何なの!?」
「いい質問だアイリス」
「ひゃひゃひふるふるふがーは(鼻血ヌルヌルヌガーさ)」

なるほど、たしかにジョージ(フレッドかもしれないが)の鼻から、抑えても抑えても鼻血が流れている。
鼻の下と口、首、セーターを血だらけにしたジョージ(やはりフレッドの可能性もある)の口に、フレッド(こちらがジョージかもしれない)が小さな塊を押し込んだ。
すると、あんなに溢れ出ていた鼻血がピタリと止まり、ハラハラと様子を見守っていたギャラリーからわっ、と歓声があがった。

「呆れた…あなたたち、本当よくやるわね」

信じられないわ、と首を振りながらアイリスが呟くと、二人はニヤリと笑った。

「アイリスもどうだい?」
「ゲーゲートローチもこれから試食だ」


そう言ってフレッド(たぶん)が見せてきたのは、先ほどの鼻血ヌルヌルヌガーのようには赤くない、黄緑色の飴だった。
バケツを用意して、今度はフレッド(ジョージではない)がそれを口に放り込んだ。
するとどうだろう、フレッドがバケツに顔をつっこむとゲーゲーと吐瀉する音がする。
ジョージ(まあ…たぶん)がフレッドの口に無理やり塊を詰め込むと、フレッドの吐瀉は唐突に終了した。
アイリスは顔をしかめると、バケツに入っていた吐瀉物を消すと、ついでに二人の顔を雑巾で拭いた。

「そんなことばっかりして…はぁ、」
「どうしたんだい、アイリス?」
「いいえ……別に」

あなたたちに期待した私が悪かったわ、とアイリスはテーブルの上を片づけ始めた。
フレッドとジョージが顔を見合わせ、アイリスの両脇に立ち、顔をのぞき込んだ。

「僕らのバースデイサプライズはお気に召さなかったかい?」
「アイリスを驚かせようと思って、ここ数日出し惜しみしてたんだけど」
「あら、散々なプレゼントね」

しれっと皮肉をはくと、二人は今度こそ顔を見合わせた。
アイリスは黙々と片づけをしている。

『しょうがないなあ、』

僕らのお姫様は、と言ってそれぞれがアイリスの頬にキスをした。(二人とも顔を清潔?な布で拭いてあった)
アイリスは一瞬目を見開くと、ポッと頬を染め、素早く左右に視線を走らせた。
妙に得意気な二人を見ると、アイリスはため息をつき、二人の頬を片頬ずつギュッとつまんだ。

「私の誕生日は明日です」
『え?!』

素っ頓狂な声をあげると、フレッドとジョージはアイリスを見た。
「あなたたち風に言うと、『何でもない日』ね」
「アイリス、そういうのは先に言ってよ!」「俺たち馬鹿みたいじゃん!」
「あら、だから何をしてるのかしらと思ってたのよ」