short | ナノ






かぼちゃと朝



アイリスは平日休日に関わらず早起きをする。
というか、全員がまとめて食事をとるホグワーツでは寝坊して朝食に食いっぱぐれる生徒は少ない。
しかしその中でもアイリスの早起きは特別早かった。日が昇るのを、ココアと分厚い本を片手にゆったりと見る。静かで、少し寒いその空間が好きなのだ。
今日もアイリスは、目を覚まし着替えると、女子寮の階段を下りた。
―――のだが。
今日はどうやら、先客がいた。

「「おはようアイリス」」

「今日も早いね」「ちゃんと寝てるのかい?」

いつだって二人一組ワンセットな赤毛の双子……フレッドとジョージは、いつものように交互にアイリスに話しかけてきた。
いたずらを考案中なのか、彼らのまわりには書きかけの羊皮紙が散らかっている。

「おはよう。私は、貴方たちの方が心配だわ。また寝ていないんじゃない?」

「二時間ばかり」「いや正確には二時間半だ」

「…大して寝ていないってことね」

アイリスはため息をつくと、こんもりとつまれた羊皮紙をどけて椅子に腰掛けた。
分厚い本を栞から開こうとして、二対の視線に気付く。

「…何かしら?」

双子を見ると、彼らはとても楽しそうに笑っている。
よからぬことを考えている証拠だと思い、アイリスは顔をしかめた。
「Trick or Treat!!」

パン、と頭の上で小さな風船がいくつもはじける。驚いて目を閉じ、身をすくめると静寂に響く二人の笑い声。

「「アイリス、ビックリした?」」

「ええ。お菓子をあげるのを躊躇うくらいには」

「「えっ!!?」」

二人は、アイリスの言葉に、ひどくがっかりしたような声を上げる。

「嘘よ」

アイリスは何事もなかったかのようにけろりと言うと、ポカンとしている双子をよそに杖を振って、戸棚からパンプキンケーキを2つよびよせた。

「はいどうぞ」

アイリスはにっこりとそれを渡すと、双子をじっと見た。

「「サンキューアイリス!!」」

双子はケーキを持ち上げて叫んだ。
アイリスはその様子を見て満足そうに微笑んだ。

「Trick or Treat?」

「「…え?」」

二人は目を瞬かせると、ケーキを持ち上げ体勢のまま顔を見合わせた。

「用意していないの?」

「あー…うん」

どうしようか悩んだあげく、二人は正直に頷いた。
アイリスはため息をつくと、にこりと笑って杖を振った。

「Treatね」

「は」「え」

急に視界が暗くなった二人は素っ頓狂な声を上げ、アイリスのよびよせた鏡をのぞき込み、更に驚いた。



Trick or Treat!
(アイリスこのかぼちゃとれないんだけど?!)(今日1日そうしていてちょうだい)((え゛!?))(嘘よ。何かお菓子をくれたらとってあげるわ)(行くぞジョージ!)(オーケーフレッド!)((じゃ、愛してるよアイリス!!))