役得! 「おい。どうなってやがる?」 「うわ!? なんだこれ!」 「おいおいおい…!」 「まあ、一度落ち着きましょう」 「「「落ち着いてられるか!!!」」」 事の起こりは定かではありませんが、まあ前日の徹夜脱衣麻雀は関係あるかもしれませんね。とにかく結果としては変わらなく、そこにあるんですから。 「すげー! でっけー!!」 「暑苦しいなこのかっこ」 「…動き辛ぇ」 単刀直入に言えば、僕ら四人の精神が入れ替わりました、ということですかね。 わかりやすく表記するなら、現在こういう感じになっています。 三蔵(中は悟浄) 悟浄(中は八戒) 八戒(中は悟空) 悟空(中は三蔵) ややこしいですが、これからは外見(中身)で表記しますね。 まあ、現状を言えば三蔵がエロくて悟浄が静かで八戒が騒がしくて悟空の目つきが悪いです。どうしましょうか。 「どうしましょうか、これ」 「いいんじゃねえの、別に?」 「貴様が俺の身体かと思うと虫唾が走るな」 三蔵(悟浄)が中の人の色気たっぷりに、悟空(三蔵)が中の人の殺気たっぷりに、…ああ。面倒ですね、もう。 「とにかく、もう一度寝てみるとか、衝撃を与えてみるとか、」 たけー、でけーと騒ぐ八戒(悟空)は無視します。 「そうだな」 「おいおい、一日くらい「でっけー!!」 「…ろくなことねぇだろ」 悟空(三蔵)が一番不機嫌そうですが、僕の方が不機嫌な自信がありますよ。 「じゃ、どーするよ」 「とりあえず全員なぐ「おーい? 起きてるー?」 部屋の戸の向こうから、すっかり存在を失念していた李翠の声が聞こえ、全員が一時停止。 「朝ご飯、できてるってー」 全員の、もちろん僕も含めた四人の顔があからさまに「しまった!」という表情になります。楽しいですが、なかなかによろしくない状況ですね。 「……なあ、俺、思ったんだけどさ」 一瞬の沈黙の後、八戒(悟空)が口を開く。 「別に、李翠にバレても問題なくね?」 「まあ、それはそうですよね」 たしかに、彼女が今更そんなことで動揺するとも思えませんからね。 「すぐに行きま…行く、先にいってろ!」 「うん? …わかった」 うっかり悟浄の身体で声も悟浄なのを忘れて返事をしかけ、さすがに慌てて言い直しました。ちょっと不審に思われましたか? 「で、バラすの? 隠すの?」 自分の口からなんて言葉が…。 「どっちでもいいけど、俺はこの身体で一回ナンパしてみて」「死ね」 三蔵(悟浄)が普段の三蔵なら言いそうもないことをぬけぬけと言い出すものだから、なんだか新鮮ですね。でも頭が痛い気がします。 悟空(三蔵)なんかは銃が手元にないから、なんだか手持ち無沙汰にしていますね。さすがに自分の身体は蹴りたくないんですかね? …あ、蹴った。 「いってぇ! テメー猿の力でやったらどうなるか考えてやってンのか!?」 「うるせぇ」 悟空(三蔵)がただのクソガキに見えて腹がたちますね。ああ、もちろん三蔵(悟浄)もですが。 「いいからさっさと飯食おうぜ! 腹減った!!」 「おい。だからまさかこのまま下りるのか?」 「え? そうじゃないんですか?」 悟空(三蔵)だけが、なんだか微妙な顔をしていますね。 「ま、チビ猿のじゃ動きづれぇわな」 そうじゃない、というように三蔵(悟浄)を睨みつける悟空(三蔵)。 「めーしーだー!!」「っておい悟空! んのバカ猿!!」 とうとう八戒(悟空)が走り出し(とても複雑な気持ちです)、悟空(三蔵)が追いかけ、さらにのろのろと歩き出した三蔵(悟浄)を私も追うことにします。 「へ、へー…。なんか…、新鮮、だね」 結局、食事をとりながら悟空(三蔵)を黙らせつつ説明をすると、さすがの李翠も驚いているようでした。 まあ、そりゃあそうですよね。がっつく八戒に色気たっぷりな三蔵、機嫌の悪い悟空に紳士な悟浄ときては。 「ま、一晩寝たら戻るんじゃない?」 「じゃあ、一日滞在引き延ばしですね…」 「自分の身体じゃないと戦いにくいもんなー」 「まあ、人のだと思えば怪我なんてしてなんぼですけどね」 ははは、と笑うとなぜか空気が凍り付いたような気がします。…気のせいでしょう。 「不便だねー」 「そんなことより李翠、デートしようぜデー」「てか悟空? いや三蔵? 可愛いんだけど」 三蔵(悟浄)が不憫なのはいつも通りですね。安心しました。 しかし、…李翠に高いたかいされてる悟空(三蔵)を、どうしろっていうんですかね。そんな睨みつけられても困ります、全然怖くありませんし。 「下ろせ。殺すぞ」 「やだ何これ可愛い。どうしよう私!」 「チッ…」 「李翠って、可愛いもん好きだっけ?」 「女の子ですからね」 「なー、あれって俺の身体だよなぁ? どう反応したらいいんだ?」 困ってるのは悟空(三蔵)だけではありませんね。この砂糖はくほど甘ったるい恋人たちは爆は…いえ、何でもありませんよ。 とりあえず、今日一日悟空(三蔵)は李翠の相手ですね。ご愁傷様です。別に面白がってなんかいませんよ? 「いやだほんと可愛いモフモフしたいかーわーいー!!」「テメッ、落ち着け!!」 「なんつーかこう…」 「微笑ましい光景、だな」 「…ですね」 まあ、せっかくの機会ですから、2人っきりにしてあげるのが気遣いというものでしょう。今だけは、顔が赤いのは見えないことにしておきますよ、三蔵。 (こんなことされてどうしろっつうんだ!)(まさか抱きつくわけにもいかねえだろうが!!) |