下戸に酒は飲ませるな 新撰組には、下戸が二人いる。 意外にも鬼の副長・土方歳三と、三番隊副隊長・千条桔梗だ。 しかしお祭り好きな彼らのこと、下戸だろうが何だろうが、飲むときには飲ませるのが…流儀である。 「えっ、桔梗飲めねえの? いーがいー」 「うっせえ。てか土方さんも飲めねえだろうが」 「それはもっと予想外だった!」 酒が入りいつも以上に騒がしい平助をどつくと、桔梗は湯飲みを手にとってため息をついた。 「これで土方さんが飲んでたらどうなってたことやら…」 桔梗は上座でしかめっ面の土方を見て、宴会状態の座敷をみた。 たがが外れた近藤、山崎に絡む山南、相当うわばみな沖田、平助、左之とどんちゃん騒いでいる新八、それらに絡まれている千鶴、黙々と飲んでいる斎藤…。 酒を飲んで羽目を外せたらどんなに楽しいことか…。 ほう、と息をつくと、平助に絡まれ助けを乞うような目をした千鶴と視線がぶつかり、桔梗は曖昧に笑って誤魔化した。 (わりー。俺には助けられねぇや…) 片目をつぶって肩をすくめる。 せめて千鶴が酒を飲まされなければいいが…と湯飲みを一気にあおると、次の瞬間、目を見開いて咽せた。 「げほっ、ごほ…っんだコレ!?」 しきりにせき込みながら、うっすらと涙を浮かべた桔梗は湯飲みをガン、と机においた。 「うわぁ、ほんとに駄目なんだ」 沖田が感心したように桔梗を見ていった。笑みさえ浮かべている。 「あン、たか……」 浅い呼吸を繰り返しながら、桔梗が沖田を恨めしそうに睨んだ。 土方が桔梗の異変に気付き立ち上がったのを最後に、桔梗は意識を手放した。 「…ったく、何やってんだテメーらは」 いっぱい足らずでぶっ倒れた桔梗を肩に担いで、土方はため息をついた。 「いや、桔梗がどれだけ飲めないのか調べようと思っただけですよ」 「総司は面白がってるだけだろうが」 沖田が含みのある笑顔を見せると、土方がバッサリと切り捨てた。 「どうせまだ飲むんだろ。桔梗は俺が見ててやる」 「副長、それなら俺が…」 立ち上がりかけた斎藤を制する。 「お前も随分飲んでるだろ」 土方が言うと、斎藤はぐっと黙り、隣の沖田につつかれた。 「早く寝ろよ」 と言い残し、土方は座敷を出た。 布団を敷いた土方の部屋で、桔梗はくうくうと寝息をたてていた。 枕元には、片膝をたてた土方が座っている。 「…まあ、ヘタに酔われるよりいい、か」 桔梗の上気した頬を見て、視線を外へ飛ばす。 「ん……おきた、さん…」 ぴくり 沖田、という名前に反応して土方が振り返った。 悩ましげな表情で桔梗が吐息を漏らした。 「たのむ、から……」 いやに女らしい桔梗と、その対象となっているであろう沖田にいらっとし、桔梗の顔に手を伸ばした。 「頼むから……いっかい、死んでくれませんかね」 「!?」 土方はぎょっとして手を引っ込めた。 「…寝てる、んだよな…」 顔を近づけて確認するが、やはり寝ているようだ。 先ほどまでとは一転して、穏やかな表情をしている。 「たく、驚かせやがっ…〜っ!?」 ため息をついて身を起こそうとした土方、突然力をうけて桔梗の方に倒れ込んだ。 慌てて手をついて、なんとか危うい体勢を維持する。 端から見ると、どう考えても土方が桔梗を襲っているようにしか見えないが。 しかし意外にも力は強く、固まってしまった。 「っおい桔梗!」 手をどかしたら崩れる!と呼び掛けてみるが、すっかり寝入ってしまっているようで、まるで反応がない。 「ああくそ…」 舌打ちをして、土方は腕に力を込めた。 しかし同時に、桔梗の力も強くなる。 これじゃ堂々巡りだと思ったところで、ぐいっと桔梗に引き寄せられた。 「ぅおっ?!」 完全に姿勢を崩し、桔梗の上に倒れ込んだ土方は逃れようとして、頭をしっかりと抑えられていることに気付いた。 こんなとこで斎藤直伝の体術が発動するとは…!! 土方はますます慌てた。 「俺、も、理性持たねえ…ぞ…っ!」 ちょっと舐めただけで眠りこけやがって…と半ば逆ギレをしながらも、必死に理性の砦を守ろうとする土方。 「……ひじ、かたさん…」 …何かの切れる音がした。 翌朝、目覚めた桔梗は頭を抱えながら、部屋の外で舟をこいでいる土方を発見し、仰天した。 やけに疲れた顔をした土方は、じろりと桔梗を睨むとため息をついた。 (土方さん、どうしたんだ…つか、俺、何してたんだ?)(あ、おはよー桔梗) (おはよーっざす沖田さん)(なにその略。ま、いいけど。ところで昨日さ………) (……………)(……………) (…ま、マジですか…)(うん、ほんと) (…土方さぁぁぁん!!さーせんっしたぁ!!)(な、なんだ桔梗?!) (…面白いなあー) (総司てめぇ何言いやがった!?)(え?別に×××××って言っただけ…) (嘘吹き込んでんじゃねえー!!) |