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狂乱家族居候日記



日曜日。
ごく普通の休日。何か行事があるわけでもなく、祝日なわけでもない、ただの休日。
そんな日、乱崎家は、今日も騒々しかった。


「いやいやいや、ちょっと待て! おい待てっつってんだろうが!!」


乱崎家の居候であり凰火の同僚である桔梗は、怒声を浴びせていた。

Q. なにに?
A. 携帯ゲーム機に。

そう、最近人気のソナーのプレイステータスポータブルである。
ちなみにソフトはこれまた人気の狩りゲーム、モンスターハンマー。通称モンハン。モンスターをハンマーで倒し、より強いハンマーを作っていくゲームだ。ちなみに、太刀、ランスなどのヴァージョンもある。
凰火に負けないくらい強い彼女は、ゲームも強い。アクション、格闘、RPG、パズルにシミュレーションなどもお手の物だ。
桔梗の持っている携帯ゲーム機から、なんかどしゃぁとか、ぶしゅぁとか聞こえる。ハッ、とかだぁぁっとかも聞こえる。
乱崎家のリビングのソファーに腰掛けながら携帯ゲーム機にかぶさるようにしながら叫ぶその姿は、変人以外の何物でもなかった。ていうか変人だった。
「……桔梗さん、五月蝿いのですが」
率直に異議を申し立てたのはこの家の主であり桔梗の同僚でもある、乱崎凰火だった。
桔梗はというと、凰火のほうを見ずに怒鳴った。
「うっさい! おまっ、今ラオ・シェンロン狩ってんだろぉ!!」
凰火は、ため息をついて、目の前に座り、勉強を教えてもらっている少女、乱崎優歌に言った。
「あんな大人になってはいけませんよ。あれと、凶華のような人間になってはいけません」
きっぱりと告げた。そしてその本人桔梗はゲームに夢中のようだった。だが――。

「凰火! 凶華様のような人間になるなとはどういうことだっ!?」

凰火の妻、乱崎凶華が声を張り上げた。ネコミミ&しっぽがオプションである。どこからどうみても大人には見えないが、自称20歳である。
「たしかに凶華様は人間ではないが、だが聞き捨てならんぞ! 凰火の分際で!」
「凶華は黙っていてください。あなたが出てくると色々と面倒なのです」
にっこりと凰火が言った。この夫婦喧嘩もまた、乱崎家の日常である。
「ちょっ、二人とも黙って! あ、ちょっ!!」
桔梗が二人に抗議すると、その桔梗に乱崎家長女、千花が抱きついた。
「おはよー、桔梗さん」
「おはよーって、違うだろ! 千花、ちょっと今のタイミングは悪すぎるって! 死んじゃったよ! しかもよりによって三回目だよ! マジかよ!!」
なぜか千花は桔梗に懐いていて、事あるごとに絡むのである。おかげで桔梗はこのように、ゲーム中であったり読書中であったり食事中であったり邪魔されるのである。
「千花ちゃーん、それくらいにしてあげなって。桔梗さんも毎度ごめんね」
そう言って桔梗にばつの悪そうな顔を見せたのは乱崎家長男、銀夏であった。銀夏はわりといいやつである。
「いやね、いいんだけどね、だってあたし大人だからね、それくらいじゃ怒んないけどね。うん、でもね、ちょっとアレかなー。急に抱きつくのはなしかなーって。ね、千花、危ないからね」
と言ってはいるが、目が危ない。桔梗はなかなか怒っているようだ。ちなみに大人と言ってはいるが、桔梗はまだ20歳である。
「だって桔梗さん、ゲームしてるとつまらないんだもの」
千花が、優歌や弟たちには見せないむくれた様子で言った。桔梗は画面を見ながらちょっとだけ操作して、ゲームの電源を落とした。
「つまらないってあのねぇ…。あたしの趣味というか生きがいというか…はぁ」
桔梗はため息をつくと携帯ゲーム機をぽいっとソファの上に投げ出した。千花がそれをよけて桔梗の隣に座る。さらに銀夏の服の袖をひっぱって隣に座らせた。さすがに三人では窮屈そうである。
「どうせなら、みんなでできるものがいいわ。ねぇ銀一さん?」
「俺はなんでもいいんだけどね」
「ほら、桔梗さん、ね? みんなでできるものにしましょう?」
面倒くさそうに投げた銀夏の言葉は、千花の頭の中で都合のいいように解釈されているようだ。
「みんなでって…多いじゃん。あたしいれて九人だよ。無理だよ」
「じゃああたしと桔梗さんと優歌ちゃんと銀一さんだけでもいいわ」
「いいのかよ」
仕方がなさそうにそう言った千花に冷静に突っ込むと、桔梗はよっこらせ、とソファから立ち上がった。
「マリパでいい?」
「ええ〜」
マリンパーティー、通称マリパ。海洋生物のパーティーゲームである。大人数向き。
しかしこれには千花が抗議の声をあげた。
「じゃあスマブラ?」
「ええっ?」
スマッシュブラスバンド、通称スマブラ。楽器を奏でながら戦うゲームである。これには銀夏が抗議した。
「…じゃあ、なにがいいの?」
眉をひそめた桔梗が二人に聞いた。ちなみに、乱崎家のゲームは基本的には全て桔梗のものである。
「んー。俺はなんでもいいんだけど」「じゃあ抗議すんなよ」
銀夏がちらっと千花をみて桔梗に言うと、桔梗はずばりと切って捨てた。
「あたしは……テトリスがいいわ」
テトリスとは、有名なパズルゲームの一つである。
「テトリス? どこやったっけ?」
桔梗が少しだけ顔をしかめると、自身の部屋にカセットとゲーム機本体を探しに行った。
千花が優歌に話しかけていると、桔梗はすぐにかえってきた。両手に大きめの箱を抱えている。
「あったの?」
「あった。あると思わなかったけど」
桔梗が床に箱を置くと、箱の上に積もったほこりが少々舞った。そして桔梗は中からゲーム機とテトリスのカセットを取り出すと、コードとコントローラーを取り出してテレビに接続した。
「おっし。…優歌、おいで。みんなでゲームしよう」
桔梗は優歌に微笑んだ。
「でも…わたし、いまお勉強中なんだよ」
困った様子で優歌が言った。ちらりと凰火を見る。凰火はにっこりと笑って言った。
「遊んでいいですよ。勉強はまたあとでしましょう」
「わぁ! わたし、さっぱりうれしいんだよ!」
優歌が笑顔でテレビの前へきた。桔梗と、千花の間に座っている。
ちなみに、いつもテレビを眺めている雹霞は、帝架とお買い物である。あの二人で買い物に行かせるのはいかがなものかと思うが、母親こと凶華はそんなことを思わないらしい。
桔梗、優歌、千花、銀夏の四人は仲良くテトリスをしている。微笑ましい光景に、凰火は頬が緩んだ。





6月10日 桔梗

この居候日記をつけ始めて、二か月ほどになる。
最近は、雹霞や月香と仲良くなれて嬉しい。
今朝、モンハンをしていたら千花の猛烈な挨拶に妨害されて、ラオ・シェンロンの討伐に失敗した。別に大人だから気にしてないけど!
で、そのあと優歌と千花と、なかば無理やりな銀夏と四人でテトリスをした。テトリスとか、久々すぎて懐かしくて楽しかった。楽しかったのが、懐かしさなのかそれ以外なのかは分からないけど。
優歌と千花の笑顔には癒される。最近はよく笑うようになって嬉しい。ていうか、居候の身で何書いてんだあたし。あー、でも消すのめんどくさいや。
てか、テトリスしてたら凶華が邪魔してきた。予想はしてたけど。まあ、凰火があしらってくれたのでよかった。明日は、凶華と凰火も誘ってみようかな。凶華は、勝てないとゲーム機壊しそうだけど。まあ、そしたら新しいの買ってもらおう。
あ、風呂の順番回ってきた。あーあ、優歌や千花と銭湯行きたいなあー。今度誘ってみようっと。