short | ナノ






愛をささやく



「ねえ臨也、しりとりでもしない?」
「いいよ」
「んーと、じゃあ」
「あ、ちょっと待って。なにか、条件つけようか。その方がおもしろいし」
「それもそうね…なににする?」
「愛の言葉……てのはどう?」
「…それ、臨也が言いたいだけじゃないの? でもま、いいわ。臨也から、しりとりの、り」
「林檎の蜜の如く麗しい君」
「……臨也、あなた恥ずかしくない?」
「ん? 別に、全然」
「あら、そう…。見惚れてしまうほど素敵な貴方」
「ため息で空も飛べそうなくらい美しい君」
「見目麗しく頭脳明晰な貴方」
「照れるね」
「あなたに言ってないわよ」
「あ、そ。じゃ…他人には決して君の笑顔を見せたくない」
「歯が浮きそう。石のように知れば知るほど美しく深い貴方の心」
「ロッキー山脈よりも深く募る君への愛」
「遺跡のような神秘を感じるわ」
「わお、なにそれ」
「…それはしりとりじゃないわよね? ただの感想よね?」
「うん。だってなにさ、遺跡のような神秘って」
「知らないわ。それより、臨也の番でしょ」
「ああ、和紙のように繊細でそれがまた美しい」
「あなた、いで終わってばっかりね」
「そうなるからね、どうしても」
「……異郷の地で貴方を想います」
「それ、あり?」
「知らないわよ。ていうか、それはお互い様だわ」
「ははは。それもそうだね…水仙のように美しく気高い君」
「水仙? 微妙なチョイスね」
「すみれでもいいよ」
「どっちでもいいわ。またみ? …ミシシッピ川の如く深く広い心を持つ人」
「すごいのかすごくないのか、イマイチな人だね、そいつ」
「ちなみにあなたは、その辺の水溜りよりも心が狭いわ」
「手厳しいね。桔梗は太平洋よりも広いだろうね」
「まさか。少なくとも、臨也よりは広いでしょうけど」
「あはは。えーと、鳥のように捕まえられない桔梗」
「ちょっと待ちなさい。なんでそこで私の名前が出てくるのかしら?」
「いやいや、つい本音が」
「鳥のようって、変な喩えだわ」
「でも、桔梗はちっとも俺に捕まらないじゃないか」
「普段よく話してるじゃない」
「そうじゃなくてさ…桔梗、いつもいつも、俺の愛の告白に振り向かないじゃないか」
「…まさか、本気だったの?」
「…冗談だとおもってたの?」
「だって臨也が…無理、ありえない! 考えられないわ!」
「ひどいなあ。このしりとりだって、全部桔梗のことだよ?」
「…うそ」
「ほんとほんと。全部、もっともっと想ってる」
「…どうりで、照れないわけね。だって、本当に考えていることなんだから」
「そうそう。じゃあさっきの鳥の喩えは撤回して、」
「撤回? ありなの、それは」
「ありあり。とりあえず、愛してる」
「えーと、それは…」


「そこぉっ!! さっきから人の授業中になにしゃべってる! 二人とも後で職員室に来い!!」





「怒られたわ」
「そうだね。実際、桔梗のせいだけど」
「なんで?」
「しりとりしようって言ったの、桔梗じゃん」
「あらま、便乗したのはあなたでしょ」
「それもそうなんだけど。ていうか……さっきの答えは?」
「え……?」
「…覚えてないとか言わないでよ」
「……あ」
「忘れてた?」
「えーと、その…」
「今日という今日は、ちゃんと答えてもらうよ。俺が本気だってわかったでしょ?」
「…………」
「桔梗?」
「だって、言うと臨也、調子に乗るとおもって。あなたが調子に乗るとまるで手がつけられないんだもの」
「え? それって、桔梗も俺のこと愛」
「愛してるじゃないわ。好き、よ。LoveじゃなくてLikeよ」
「あははは」
「なに笑ってるのよ」
「いや、桔梗ってば可愛いなあと思って」
「…さっきの、取り消そうかしら」
「なにか言った?」
「臨也が調子に乗ったら、平和島君と浮気でもしようかなあと思って」
「……冗談」
「わりと本気だけどね。臨也が調子に乗らなければ問題ないのよ」
「うわー、桔梗って意外とえげつないね」
「そんなことないわ。誰かさんよりは、ね」