これはきっと、いや、まさか。 いきなりで申し訳ないが、あえて言わせてもらおう。 一体何だ、この状況は。 「すまん、ネジ。もう大丈夫だから離してくれないか」 「その足でどこが大丈夫なのか言ってみろ」 「歩ける」 「……本当か?」 「…………たぶん」 はあ、とため息をつくネジ。考えようによっては、ネジにため息をつかせるなんて私はすごいんじゃないだろうか。いや、今はそんな話じゃない。 「だが、このままじゃお前も動けないだろ。これくらいなら無理してでも…」 「木の葉までどれくらいあると思ってるんだ」 正論を畳みかけられたら、ぐうの音も出ない。そうなんだけど、二人で任務に来ているのにもう一人の怪我をかばっていたら危険が増してしまう。ここのところ、どこも治安が悪い。 「じゃあ、私をここに置いていって、あとで誰かを…」 「いい加減にしろ、桔梗」 「……ハイ」 普段は組みやすいネジも、どうも堅物なものだからこういうときは厄介だ。 で、今の状況を改めて説明すると、痛めた足で木から落ちそうになったところ、ネジに腕を引っ張られて事なきを得たが、そのまま腕の中に閉じ込められて離してもらえていないわけだ。 「もう大丈夫だから気にするな」 「信用できないな」 「ひどいな」 まだ足場が不安定なのはわかるが、この場所はいかんせん心臓に悪い。確かにネジは昔から私より背が高かったけれど、頭一個分も差がある状態で抱き締められるということは、すっかり抱きすくめられてしまうというわけで。 「というか、じゃあどうするんだ」 いつの間にかすっかり男になって、などと考えながら気を紛らわせるも、自分の鼓動が聞こえてきそうで気が狂いそうだ。 「…………」 「……考えてなかっただろ」 見上げれば、慌てて顔をそらしたネジがいて、今度は私がため息をついた。 「はぁ……わかった、そんなに言うなら私をおぶれ。で、いざとなったら捨ててくれて構わないから」 「後者は却下するが、前者は採用する」 そう言いながらやっと私を解放し、背中を向けて膝を突いた。ネジにここまでさせるのは、きっと私か……ヒナタくらいしかいないんだろう。あまり強くしがみつくわけにもいかないから、肩のあたりをしっかり掴む。 「桔梗は無茶をするくせに、自分を大切にしない」 「うるさいな、任務第一なんだよ」 「……ふっ」 なぜかネジが吹き出して、よくわからないが笑われてしまった。まったく意味が分からない。行動も思考も。 「桔梗のそういうところは、嫌いじゃない」 「…ありがと」 どういうところだ。任務第一な人間とか、正直言っておいてなんだが私だったらひくぞ。ネジはいつまでも肩を震わせているし。 「……なあ、ネジ」 「なんだ?」 「……いや、やっぱりいい。何でもない」 なんだそれは、と言って笑うネジの貴重な横顔をいただいて、開きかけた口を閉ざした。 ネジがヒナタに対して抱いているのは恋愛感情ではないとわかっている。憧憬、とかそんなものだ。心から憎んでいることはあるまい。とは言っても、私にはネジに思いを伝えるだけの勇気と覚悟はなくて。 「桔梗」 「うん? どうした」 今の関係を壊すのが怖いだなんて、いつからそんな乙女になったのか甚だしい疑問だ。 「……いや、何でもない」 「なんだよ、気になるじゃないか」 「桔梗が言ったら、言ってもいい」 「あ、なら言わなくていい」 (ネジが私を)(桔梗がオレを) ((好きなはずはないだろう)) (友人へ愛を込めて!) |