short | ナノ






無自覚なニビイロ



朝からネジを探し回っているのだけど、なぜか見つからない。いつも姿を見かける森にも、家にも、日向宗家にもいなかった。途中途中で会ったサクラやシカマルにも聞いてみたけど、居場所は一向に知れず。
いないならいないでいいのだけど、ここまで姿が見えないといっそ見つけたくなるのが人情。任務のはずはないとカカシ先生やツナデ様が言っていたから、木の葉の里にはいると思うのだが。
「テンテン、ネジ見なかった?」
「ネジ? さあ…見てないわ」
テンテンも駄目か。ヒナタが知ってるはずはないだろうし、もしかしたらリーと組み手でもしているのだろうか。普段は乗り気でないようだけど。
「ネジがどうかしたの?」
「いや、手合わせしてもらおうと思って」
「ふーん……」
まじまじと見つめられて、なんだようと問いかける。顔をそらしたテンテンが急に笑い出すので、ますます不可解になって眉を寄せた。
「覚えてないと思うけどー」
「なっ…ちがわい! 純粋に手合わせしようと思っただけだし!」
理由に思い至って慌てて否定する。そりゃあ、少しは期待もするけど、そもそもネジが誰かの誕生日を祝っているところなんて見たことがない。期待するだけ無駄だ。
とはいえ、口実をこじつけてでもこんな日に顔を見たいと思ってしまうのは厄介なオトメゴコロだ。いらん。
「ま、がんばって探しなさい」
結局からかうだけからかって、テンテンは楽しそうに去っていった。
それにしても、本当に見つからないものだ。忍びすぎじゃないのか。昼も過ぎてお腹が減ってきたし、このままネジを探して一日つぶすのももったいない。家に帰ろうと踵を返したとき、ラーメン屋ののれんをくぐって出てきたシカマルに「桔梗」と呼び止められた。
「さっき見たぜ、ネジ」
「ほんと!? どこで!」
前言撤回。ネジ探し、再開します。
「お前んちの近く。あそこ、林あっただろ」
「ああー…あそこか」
灯台下暗しとはこのことか。今朝家を出てから、そちらの方は行っていなかった。確かに、ネジが好みそうな林が近くにある。
「ありがと、シカマル!」
めんどくさがり屋なのに、とは声に出さずに駆け出した。



「はぁ、はぁ……」
急いで家の前まで帰ってくると、林の中へ入っていく。こういう場所になると気配を消してしまうのは忍の習性というものだろう。もっとも、ネジ相手にそんなものが通じないのはわかっているけど。
「―――誰だ」
すいませーん、私でーすとはさすがに言わないが。いくら何でも気付くのが早すぎないか。
「いたいた。探したよ、ネジ」
「…桔梗か」
諦めて姿を現せば、ネジは首筋の汗をぐっと拭ってこちらを振り返った。浮き上がった目元の血管は、最初こそ怖かったものの、今では頼もしい限りだ。
「何か用か」
「久しぶりに手合わせ頼もうと思って」
「久しぶりか?」
「何ヶ月か振り」
普段なら稽古の手を止めないのに、今日は休憩時間と重なったのか、切り株に腰掛けながら相手をしてくれる。こういうのにトキメク自分に鳥肌をたてつつ、仕方がないなあと思っている自分も感じた。
「わかった、やろう」
「ありがとー」
ネジのことだから、疲れているか心配することはしない。それはさすがに失礼というもの、彼の力量くらいは私だってわきまえている。それでも手合わせを頼んで相手をしてもらえるのだから、案外私はネジと仲がいいんじゃないかと思う。
「その前に、一言いいか」
「うん? 二言でもどうぞ」
相対して構える前に、自然体のネジが言う。負けたら昼ご飯おごり、とかだろうか。ネジが負けるはずないじゃないか。
「誕生日おめでとう、桔梗」
「…………は?」
聞き返した次の瞬間、ネジは構えをとって素早く動き出していた。そのおかげで、ちらりと見えた気がしたネジの微笑みは、錯覚だったのか現実だったのかわからなくなってしまった。というか、先の言葉さえ幻聴ではないかと耳を疑った。
動揺してワンテンポ遅れてしまったがために、決着はあっという間についた。無論、ネジの勝ち。
「ど、動揺させたのか! セコい、そんな手を使わなくてもネジ強いじゃんか!」
「いや、あれは普通に……」
「な、!」
普通に言われたらもっとたちが悪いのだ、と心の中で叫んだ。幻のような笑顔にキュンとしただなんて、恥ずかしくて絶対誰にも言えそうにない。ちくしょう、罪作りっ。





(友人へ愛を込めて!)