short | ナノ






君に送るアイラヴユー



「えっ、今日誕生日やったとや!?」
私が告げた事実に目をむいて、サッカー部のわんここと高山昭栄が驚いていた。正直今も、力なくたれる犬耳と尻尾が見えるようだ。
「うん。言っとらんかった?」
「初耳ばい!」
昭栄とは学年……というか、クラスが同じだから、よく話していたつもりだったけれど。案外単純なことほど会話の端に昇っていなかったらしい。
いつも私が見上げなくてもいいように軽く腰を屈めてくれるのだけど、辛くないのかなあ、と思うことがある。
「キャプテンとカズさんにも言ってなかや?」
「…うーん、どやろ。覚えてなかしなぁ」
あの二人は、なんだか恐れ多いというか、ちょっと怖いのであまり話したことがない。あ、いや、キャプテンとは部活で話すけど。あまり自分のことを聞かれたり、話したりしたことはないと思う。
「やったら、知っとーは俺だけっちこつか?」
大きなフレームの奥で、きらきらと目を輝かせる昭栄。何が嬉しい……あるいは楽しいのかわからないけれど、昭栄の笑顔を見ていると、私まで笑顔になれるのは事実だ。やっぱり昭栄はかわいい。
「そうかもねー」
「よっしゃ!!」
突然、力強くガッツポーズを決めた。驚いて少し仰け反ると、昭栄があたふたとし始めた。仕草も表情も、ころころと変わって忙しそうだ。
「わ、悪かね。嬉しかったけん、つい……」
照れたように頭をかきながらはにかむ。同級生なのに年下のような昭栄は、意外と女子に人気がある。バカではあるけれど、それも愛すべきバカ、としての扱いだ。かわいいと思うのは自然……だろう、たぶん。
「どげんして嬉しかね?」
それにしても相変わらず不思議なことを言うと思い、訊ねてみる。……けれど、昭栄はやはり慌てて手を動かすだけで言葉がない。
「だから、なんね、聞いちゅうやろ」
「ききき気にせんとよ!!」
「……そげんこつば言われたら、余計気になろうや」
強く出れば結局喋ってしまう昭栄なので、少し眉を吊り上げて問い詰めるように距離を縮める。距離をつめる、昭栄が下がる、つめる、下がるを何度も繰り返したところで昭栄の背中が壁にあたる。
「…そげんか言いたくなか?」
周りに人がいなくてよかった、と思うと同時に、これだけ嫌がってるのにやはり悪いことをしただろうかと不安になる。
「っ、や、ちょお心ん準備ができてなかけん、」
視線をあちこちにさまよわせながら、しどろもどろに昭栄が言う。ひどく頬が赤い。そんなに恥ずかしいことでもあるのだろうか。
「なん?」
「…………ちぇい!!」
「ひゃふん!」
気合いを入れたように言うと、一気に腕を伸ばして私の体を抱き締めた。羞恥心を隠すようにきつく腕に力を込められて少し苦しい。
「しょ、えぃ…くるし、い」
背が高い上に、力もある昭栄にそんなに抱き締められたら、私の体が潰れてしまう。抗議しようと声を上げるけど、肺が圧迫されてうまく言葉を紡げない。
「あー……」
昭栄は何かを一生懸命考えているようで、ますます腕に力が入る。
「しょー、えい!」
「え、あ? ……わあっ、悪か!」
ひときわ声を張り上げると、やっと気付いたのか腕を弛めてくれる。それでも離さないのは、どうしたことだろうか。
「昭栄、なんばしよっとね?」
声をかけてみても、昭栄はあーとかうーとうなり声しか寄越さない。昭栄の腕の中も存外居心地がいいのだけれど、いつまでもこうしているわけにもいかないのだし。
「セクハラや訴えっとよー」
「のおぅ!!」
凄まじい勢いで解放してくれた。
「昭栄?」
いつもだってふざけてこういう事をする。それなのに、今日に限って様子がおかしい。
「あ、あー……。…よし! よう聞いとーよ!」
「え、あ、うん?」
よくわからないままに前置きしてから、盛大な声で、かつ端的にすべてを伝えてきた。見る間に顔が熱くなっていくのがわかる。昭栄も、私も。
「た、誕生日プレゼントや!」
照れたように早口で付け加える昭栄の顔がまともに見られなくて俯くと、おろおろとする昭栄の手をぎゅっと握りしめた。





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