コーヒーを飲みたくなる朝 桔梗を、そういう意味でベッドに誘ったのはこれが初めてだった。今までも同じベッドで寝ることはあったが、体を重ねたことは、それでもまだ、なかったのだ。 「……いい、のか」 「うん?」 ベッドの縁に腰掛けて、彼女に尋ねる。曖昧な返事をする桔梗に額をくっつける。 「本当に、しても。桔梗が嫌なら、断ってくれて構わないんだぞ」 僕だって男だから、桔梗を抱きたいと思ったことは何度もある。けれど本当に、心から愛しているから、彼女が嫌がることはしたくないし、それくらいなら何とか我慢しようと思う。それくらいの理性は持ち合わせているつもりだ。 「…ううん。嫌じゃ、ない」 ふわりと笑って、言う。その顔にさえ見とれてしまって、恥ずかしさを誤魔化すために彼女の髪に指を通してみる。これからヤるっていうのに、僕は何を恥ずかしがっているんだか。 「本当に、嫌じゃないのか」 「うん」 「…本当の本当に、いいのか?」 「ああ、だから何度もそう…」 苦笑する桔梗に触れるだけの口付けを落として、少し離れる。ワンピースからのぞく鎖骨をそっとなぞると、桔梗の口から色っぽい声が漏れた。 「たぶん僕は、止まらない…というか、止められないと思う」 溜まるものは、溜まっているわけなのだし。 「……桔梗、抱いてもいいか?」 「…私は、凍季也だから」 僕の襟首をつかんで引き寄せると、耳元でそっと囁く。かすかにかかる吐息が、何だかむず痒い。 「凍季也だからいい……違うな。凍季也が、いい」 ……ここらで僕の理性には、一旦引っ込んでもらうとしよう。 肩を押して襟首をつかんでいた手に指を絡めると、そのまま深く唇を重ねて押し倒す。 「ふっ……、ん、」 彼女は長い口付けにも耐えようとするので、どうやって声を出してもらうか考えながらワンピースの裾に手をかけた。角度を変えて何度もキスをする。わずかな隙間さえ与えないように、舌を絡めて、時には歯列をなめあげて、長く、長く、キスをする。 「んっ、ぁ」 苦しそうに眉を寄せたところで一度唇を離した。桔梗の衣服をすっかり脱がせてしまったあと、その体を見てやっぱり白いなと思う。恥ずかしそうに身をよじる首筋に唇を寄せて、ひとつ接吻痕を残した。 ふっと意識が浮上する感覚があり、ゆっくりと瞼を持ち上げる。肌に触れる温かさに目を落とすと、腕の中で桔梗が静かに寝息をたてていた。 そういえば、僕にアレがついてるのか聞いてきた女狐がいたな、と思い出して不愉快になったので、ぎゅっと腕に力を込める。 「…んぅ」 小さく声をあげたので、起こしたかと思って慌てて力を抜く。 「…良かった」 まだ、夢の中にいるようだ。 今の時刻が気になって、枕元の時計に手を伸ばす。どちらも5のあたりを指していた。もうそんな時間かと、ベッドから抜け出る。昨晩脱ぎ散らかした服の中からズボンを拾って履く。ベルトはしなくていいだろう、別に出かけるわけでもないし。同じ理由で、上も着ないことにする。 桔梗を起こさないように寝室を出てから、リビングのカーテンを開け放つ。高層階のいいところは、こんな格好をしていても人に見られる心配がないということだろう。 「…おはよう、姉さん」 写真立てに挨拶をするが、何となく気まずくてそれを伏せる。 ソファに身を沈めて、深く息をつく。昨晩の情事を思い出して、えもいわれぬ気持ちになった。 ――命は、こうして、できるんだな。 熱っぽい瞳で僕を見上げながら、彼女は言った。昨晩はきちんとゴムを着けていたからそんなことは考えもしなかったが、そう言われて僕は初めて気がついた。僕たちはこうして生まれてきたのだし、もし僕らに子どもができるなら、やはりこうしてできるのだ。なんだかそれは、とても崇高で、高尚なもののように思えた。 太陽の角度か、部屋に光が入るようになってきた。そろそろ活動を始めなければなるまい。 「…そうだな。二人…いや、三人は」 桔梗が起きたらそう告げようと決めて身を起こす。何だか無性にコーヒーが飲みたくなったので、ドリップを探すために立ち上がった。 おまけ↓ ※ちょっぴり(?)お下品 おまけ。 コンロに薬缶をかけてから、桔梗の様子を見に行く。まだ起きていないようなので、そっとしておく。 ……それにしても。柔らかい体や、滑らかな肌、思い出すだに、下半身に熱が集まる。…止めよう。 ベッドに腰掛けて、髪を梳いてやる。…ああ、やっぱり愛おしい。大切にしたい思いと、めちゃくちゃにしてやりたい思いとが入り混じる。 「…はぁ、」 思わずため息をつくと、背筋が伸びた。ゆっくりと桔梗から手を離して、さらにベッドから立ち上がる。…ちょっと、待て。とりあえず寝室もあとにする。 それから、自分のそれが硬くなっていることを確認してしまったので、トイレに駆け込んだ。 …ああ、お湯が沸いてしまう。 |