short | ナノ






今日も元気にサボタージュ



「風邪をひいた」
「それで?」
「熱が四十度くらいあって死にそう」
「安心しろ、それだけあったらすでに死んでいる。葬式には出てやる」
「ぼーっとして、ふわーっとする」
「病院へ行くことを推奨する。そのまま入院しろ」
「そーゆうわけなんで、」
お見舞いっつうか、看病しに来い。
そう言って通話が一方的に終了された。僕に電話できる時点でダウトだ。
「……まあ、気が向かないし」
何がといえば、登校する、と答えるしかない。
進行方向を、自称四十度ちかい熱の桔梗の家へ変えた。大して真面目に授業をうける気のない僕に絞ってくるあたり、食えない奴だ。
ピリリ、と再びケータイが着信を告げる。
「……なんだ?」
「水鏡遅い。三秒待つから二秒で来い」
「うるさい黙れ」
今度はこちらから通話を打ち切って、ついでに電源も切る。やっぱり、サボりたいすなわち仮病説が有力だな。

「遅い! 千二百秒の遅刻!」
「数えていたのか。律儀な奴だな」
歩けば十分とかからないのに、なぜ倍の時間がかかったかといえば、それは桔梗のためにコンビニでポカリスウェットとウィダーインゼリーその他諸々を購入したからだ。こいつからその費用が返ってくるとも思えないので、一番安いのにした。
「本当に風邪だったんだな」
「信じてなかったの? 水鏡サイテー」
「口はそんなに元気なのにな」
「あ、ねえ聞いて。文頭に下のってつけると何でも下ネタに」「黙れ」
本当に発熱しているのかと疑わしげな目で見れば、桔梗は、何がおかしいのかにこにこと笑っていた。…本当、意味がわからない。
「黙って寝ていろ」
「え、なんか食べるもの作ってよ」
「……僕に期待するのか?」
「水鏡に頼んだ私がバカだった」
僕は家庭科の授業なんて受けたことがない。
コンビニで買ったおにぎりを放り投げると、いつもなら片手のところを、両手でキャッチした。それなりに弱っているらしい。
「こうなるとわかったはずだろう。なぜ僕を呼んだ?」
「水鏡がよかったから」
「ダウト」
いくら風邪でも、桔梗がこんなことを言うはずない。こいつ、何も考えずに僕を呼んだな。
「信じてくれないの? 別にいいけど」
いいのか。
「いや、でもそれなりに寂しかったのは事実。静かにそばにいてくれる人が、水鏡以外思いつかなかっただけ」
「…そう、か」
「あれ、なに? 照れてる?」
「うるさい」
手頃な位置にあった枕で殴る。低反発か。
「…寝てろ」
「うん」
気が済んだのか、今度こそ布団を引っ張り上げて丸まった。ずり落ちていた毛布をかけてやると、小さな声でありがとうと返ってきた。
まだ寒いのか、体をさらに縮こめる。気まぐれに髪を撫でてやると、じきに寝息が聞こえてきた。
「いつもこうなら、もう少し可愛げがあるんだがな」

ところで、僕はいつ帰ればいいんだ。