日曜クッキング にんじん嫌いにも食べられる料理募集。詳細はサッカー部三年渋沢まで。 「…うーん、切実なんだなぁ」 誰が描いたのか、明らかに藤代と思しきイラストとにんじんが描かれている。女子寮にも貼られているということは、もしかして校内にも貼ってあるんじゃという気になってきた。 「生徒会で、渋沢克朗クッキングって番組をつくるべきだよね」 とりあえず、部活の時にでも聞いてみることにしよう。 「渋沢先輩、あの貼り紙本気ですか?」 ビブスやドリンクを用意しながら、渋沢先輩に声をかける。この場に藤代がいなくてよかった。 「貼り紙?」 「藤代でも食べられるにんじん料理」 ああ、と手を打つ先輩。 「一応本気だよ。花南さんは何か知ってるかい?」 「すいません、藤代でも食べられるって条件あるかぎり無理です」 「…だよな」 笑いながら肩を落とした先輩が見ていられなくて、そそくさと背を向ける。 以前、笠井と話しているとき、三上先輩に絡まれた。うっかり会話を聞かれてしまい、私が渋沢先輩を好きだと知られてしまったわけだけど、そのとき先輩が言い残した言葉が本当なんじゃないかと最近思い始めている。 (藤代がいるかぎり、他には手がまわらない、か) 確かに、武蔵森にいる間は保父さんみたいだな、と。 「いい加減、食べてくれてもな…」 困ったように笑う先輩を見て、何が何でも藤代ににんじんを食べさせようと決意した。 「渋沢先輩! 作りましょう!」 「な、何を?」 「にんじん料理!」 何が何でも食わせてやる、と意志を固める。 「何か知ってるのか?」 「いえ、でも待ってちゃダメです! 自分たちで作らないと」 ぐっと拳を握ってみせると、目を丸くする渋沢さん。ここまでしてくれる先輩の料理を断るなんて…藤代、お前は小学生か! 「うーん……」 「あ、…忙しい、ですか?」 考え込んだ渋沢さんを見て、でしゃばりすぎたかもしれないと慌てて反省する。先輩は三年生だし、わたしと違って忙しいよね。 「…いや、今度の日曜日でよければ、ぜひ」 その返答に、スケジュールの確認をしていただけなのだと気付かされる。部活も休みだし、テスト前でもない日曜日。そんな日曜日に、先輩からお誘い。 断るなんて選択肢、あるわけがない。 「はい! ぜひ!」 「よかった。じゃあ、楽しみにしてるよ」 爽やかで優しげな微笑みを浮かべて、渋沢さんは立ち去ってしまった。 残念だなあとも思うけれど、休日に会える口実ができたのが嬉しくて、だれもいないことを確認してからスキップで部屋まで戻った。 |