short | ナノ






Attack!



「おはよう桔梗」
「あ、おはよー翼くん」
「明日部活休みなんだけど、どっか行かない?」
「あ、やっちゃんおはよー」
「って聞いてないし」
朝からマイペースすぎるだろ、と、クラスメート兼好きな人である桔梗に突っ込む。残念ながらこいつはこれで通常運行だし、そういうところにほれたわけなんだけどさ。
「ごめん、明日部活ある」
「ああ、聞いてたんだ。部活なら仕方ないか」
ぶっちゃけ一日くらい休めばいいのにと思ったけど、もし俺がそう要求されたら絶対に断るから諦めた。
「桔梗、今日のおかず何?」
朝昼晩とサッカー漬けで、自分の弁当じゃ足りないと言っていたら、いつだったか桔梗がおかずを分けてくれた。それからはほとんど毎日、おかずをもらうようになった。新婚みたいで何気に気に入ってる。
「んーとね、たまごとトマト、ほうれん草に唐揚げ、とか」
「味噌汁は?」
「や、だから無理だっていってんじゃん」
「じゃあ毎朝うちで作ってよ」
「遠いからいやですー」
ついでに軽くプロポーズをしてみるけど、軽くかわされる。ちなみにこれ、毎日やってるから。
「そうだ。翼くん、これ、前借りたCD」
階段を上がりながら、桔梗が鞄の中から袋を取り出した。
「ああ。どうだった?」
「シングルに入ってるやつが好きだなー」
「それ、俺も気に入ってる」
他愛のない話をしているとすぐ教室の前まで来てしまう。階段がずっと続けばいいのに。……いや、それもそれでどうかな。
「じゃ、あとで」
ここまできて、俺と桔梗はクラスが違う。…訳ないだろ。クラスメートって言ったんだから。桔梗が吹奏楽部で、朝から練習に行っているだけだ。俺も朝練したいところだけど、昨日柾輝と一対一が白熱して宿題忘れてたから、朝のうちに片付けなきゃいけない。
「翼、はよ」
「ん、五助か。おはよ」
自分の席に向かう途中、五助に挨拶をする。
さて、宿題をやりながら、今日一日、桔梗にどんなアピールをするか考えるとしよう。



「桔梗、土曜日って暇?」
「午後からなら。あ、でも、」
「よし、デート決定ね」
とにかくお互いの休みが合わないなら、そうなる日をつくればいいことに気がついた。あとで柾輝に謝ろう。フットサル行く約束してたから。
「え、デート?」
「俺とは嫌?」
「や、そうじゃなくて、むしろ嬉しいけど…」
「じゃあ何」
嬉しいんだ。その返事はなかなか俺も嬉しいかも。
「その日、親がいないから弟妹の面倒見なきゃいけないの」
申し訳無さそうな桔梗の顔を見て、合点が行く。たしか幼稚園だかだったな。そりゃ面倒見る必要がある。
「ふーん」
「ごめんね。だからさ、今度の」
「じゃあ桔梗んちに行けばいいじゃん」
「日曜日…って、え?」
「桔梗の弟妹、見てみたいし」
実際のところは桔梗の家に行きたいだけだけど、それを本人にいう必要はないだろう。
「でも、ほんとあいつらうるさいし」
「うるさいのは慣れてる」
「翼くんと遊びたがるかもしれないし」
「未来の義弟妹と仲良くするのは大事だろ」
「……あれ、未来の?」
そんなに俺を家に呼びたくないのか、渋る桔梗に畳み掛ける。
「翼くん、それって、」
「…あのさぁ、俺が桔梗のこと好きだって、言わなきゃわかんないわけ?」
なんで告白してるのに、こんななし崩しでいい加減なんだ。
「結婚を前提に、俺と付き合ってくれる?」
もういいや、言っちゃえ、みたいなノリで、満面の笑みで言い切った。あ、しまった。教室でいうことじゃなかったな。
「け、結婚…?」
「将来的には椎名桔梗」
「そこじゃないよ?!」
あ、桔梗にはじめて突っ込まれた。
「で、返事は?」
「う………ん」
俯いて、小さくつぶやく桔梗。ちょっと意地悪してやろうと思い立つ。
「聞こえない」
「……はい」
「何がはい?」
我ながら性格悪いなーと思いながら、桔梗の言葉を待つ。
「私、も。翼くんのこと、好きです。……結婚を前提に、お付き合いできる、くらいには」
「上等」
そう言って桔梗の頭を乱暴に撫で回した。